2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が、すべての事業主の義務になります。労働者を1人でも雇っていれば対象なので、個人経営の店も、私が経営しているカフェも対象です。
「義務化」と聞いて経営者が最初に考えるのは、マニュアルを修正すればいいのか?それとも何かサービス・機器を入れないといけないのか?だと思います。私の答えは「どちらも半分正しい」です。マニュアルを整えるだけで現場は変わらないし、安易にサービス・機器を取り入れるだけで義務は満たせない。対応すべきは、スタッフが困った場面を店として引き取れる仕組みです。
私は株式会社Core Drivenの代表として会社を経営し、自分でも飲食&小売店を経営しています。同時に、飲食コンサルティング会社の執行役員として、飲食店・小売店・サロンといった店舗ビジネスの現場をサポートしています。店の数字だけでなく、スタッフの日報と、お客様からのクチコミを毎日読んでいる立場です。
この記事では、決まったルールを整理し、店がやるべきことを一覧にしたうえで、まず最低限やっておきたいことを二つに絞って書きます。
10月1日から、店にカスハラ対策が義務づけられる
2025年6月の労働施策総合推進法の改正により、2026年10月1日から、カスハラを防止するための雇用管理上の措置が、すべての事業主の義務になります。中小企業や個人経営の店も対象です。企業規模による猶予はなく、パートやアルバイトも保護の対象に含まれます。措置義務違反そのものへの罰則はありませんが、行政の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は公表されることがあります。
ここでいうカスハラは、お客様や取引先などの言動が、業務の性質や経緯に照らして社会通念上許容される範囲を超え、スタッフの就業環境を害するものです。正当な苦情や低評価が、そのままカスハラになるわけではありません。要求の内容と、暴力・脅迫・執拗な言動といった伝え方の両方を見て判断します。要求自体に理由があっても、伝え方が許容される範囲を超える場合があります。
飲食店に限れば、シンクロ・フードが2024年8月に行った調査で、回答した経営者・運営者357人の55.7%にカスハラを受けた経験がありました。経験者199人の複数回答では、「威圧的な言動」63.8%、「接客に対する不当なクレーム」49.7%。全国の発生率を示す調査ではありませんが、回答した店の半数以上が経験しています。

お店がやるべき5つのことと、それぞれに役立つツール
厚生労働省の指針が事業主に求めている措置は、次の5つです。就業規則や研修の話に見えますが、店の実務に置き換えると、それぞれに役立つツールがあります。

| 指針が求めること | 店の実務に置き換えると | 役に立つツール |
|---|---|---|
| 方針と対処方法を明確にし、周知する | スタッフを守る方針と対応手順を文書にし、店頭や電話でお客様にも伝える | 店頭掲示、電話の録音アナウンス、AI電話の冒頭案内 |
| 相談体制を整える | 相談先を決め、店長不在でも連絡がつくようにする | スタッフ用のチャット、日報 |
| 事後に速やかに対応する | 事実を確認し、スタッフに配慮し、再発を防ぐ | 注文履歴(POSレジ・モバイルオーダー)、クラウドカメラ、通話録音 |
| 特に悪質な言動を抑止する体制を整える | 警告・出入り禁止・警察通報の方針と、その根拠になる記録 | クラウドカメラ、通話録音、予約管理システムの来店履歴 |
| プライバシーを保護し、相談等を理由に不利益に扱わない | 相談者を守る方針と、外に出す個人情報を減らす | レシートの担当者表記、予約システムの窓口一本化 |

指針は特定の機器の導入を求めているわけではありません。
ただ、指針が対処の例として挙げているのは、録音・録画で事実を確認する、対応の経緯を記録する、悪質な場合は警告や出入り禁止にする、といったことで、どれも記録が残っていて初めて現実的になります。 私は、機器の導入は義務ではないが、記録が無い店は指針どおりに動けない、と捉えています。
まず最低限やっておきたい2つのこと
5つを、忙しい店が10月1日までに全部そろえるのは難しいと思います。文書を作り、相談窓口を決め、カメラを入れ、研修をして、評価も変える。私の店でも、一度には無理でした。
そこで私が勧めているのは、まず次の2つです。

1つ目は、自分の店で起きやすいカスハラの傾向をつかむこと。
カスハラ対策の解説は、暴力から低評価まで様々です。ただし、駅前の居酒屋と住宅街のカフェでは、客層もニーズも違い、発生しやすいカスハラの傾向が変わります。返品が多い商品を扱う店と、予約制で担当を指名するサロンでも違います。自分の店の傾向を先に知らないと、優先すべき対策がわからず、全てを薄く広く準備することになってしまいます。
2つ目は、その傾向に合わせて、システムと記録で店舗とスタッフを守ること。
人の対応を鍛えるより、その場面が起きない仕組みにするほうが確実です。起きてしまった場面は、記録があれば適切な処置を施せます。
【最低限やっておきたいこと①】自分の店で起きやすいカスハラの傾向を現場から吸い上げる
カスハラの傾向は、店ごとに違います。客層、営業時間、商品やサービスの特性で、揉めやすい場面はある程度決まっています。深夜営業の居酒屋なら酔ったお客様の会計、テイクアウト中心の店なら商品の状態への申し出、返品条件が複雑な小売店なら返品、指名制のサロンなら仕上がりと担当者への要求。ここは経験である程度予想できます。

ただ、予想と実際は違います。そして実際に起きていることは、経営者が店にいる時間には分かりません。
トラブルは経営者がいないときに起きて、スタッフが「この程度で報告していいのか」と迷ったまま終わります。だから、今、水面下で何が起きているかを、スタッフから毎日聞く仕組みが要ります。目的はカスハラの件数を数えることではなく、自分の店が対策すべき傾向をつかむことです。
「今日カスハラはありましたか」と聞いても、本人がそう判断できた出来事しか上がってきません。聞くのは、もっと手前です。お客様の反応で気になったこと、喜んでもらえたはずなのに不満そうだったこと、返答に迷ったこと、断ったこと。店に合わせて質問を作ります。
| 業種 | 毎日聞く質問の例 |
|---|---|
| 飲食店 | 提供が遅れたときのお客様の反応は/会計で食い違いはあったか/注文と違うと言われたことは/喜んでもらえたと思ったのに反応が薄かった場面は |
| 小売店 | 返品・交換の申し出はあったか、その条件は/値引きを求められたか/レジ待ちで言われたことは/商品説明で聞き返されたことは |
| サロン | 仕上がりへの反応で気になったことは/予約の変更や指名で言われたことは/施術前の説明で伝わっていなかったことは/個人的な連絡先を聞かれたことは |

私の店とサポート先では、これをスタッフが手元のAIと壁打ちする形にしています。特別なシステムは使っていません。
汎用のAIチャットに「質問は一度に一つ」「答えた言葉は言い換えない」「最後に日時・場面・お客様の言葉・店の対応・引き継ぎ先の順で5行にまとめる」と指示しておき、スタッフは退勤前に答えます。出力は、店で使っているLINEなどのチャットに貼る、日報用のフォームに貼る、アンケートフォームがあればそこに入れる。提出の形は店にあるものでよく、無料のAIチャットで今日から始められます。
正直、最初からうまくいったわけではありません。初期の日報には「現場で起きたこと:忙しかった」「原因:未確認」と書かれていました。出力の欄を増やしすぎて、AIが項目を一つずつ消化するだけになっていたのです。質問を一つずつにする、答えた内容を聞き直さない、スタッフの言葉を言い換えない。この三つに直してから、読める日報になりました。
こうして数週間分を読むと、店ごとの傾向が見えてきます。私の店とサポート先で、これは一人に任せてはいけない、と判断した場面を業種ごとに書きます。
飲食店の場合
ある飲食店で、食べ終えた後に「髪の毛が入っていた」と言われたことがあります。皿にはもう何も残っていません。写真を見せられましたが、いつ撮ったのかは分かりません。代金を払わないと言い、「この後の予定も潰れたから、その分も」と続き、他のお客様の前で声が大きくなりました。ホールのスタッフは謝る以外に何もできず、店長は厨房から出られませんでした。異物混入は店の責任です。ただ、確かめようのない申し出に、その場でどこまで応じるかを、アルバイトが一人で決めさせられていました。
小売店の場合
私が経営していた物販店で、数か月前に売った商品を「不良品だ」と持ち込まれたことがあります。使用感があり、レシートはなく、購入時期も本人の記憶だけでした。全額返金に加えて来店の交通費を求められ、断ると「本社に言う」「ネットに書く」と言われ、閉店時刻を過ぎても帰りません。レジは一人で回していて、他のお客様を待たせながらの対応でした。不良品の返品は当然受けます。問題は、確認できないものを、その場で判断させられたことです。
サロンの場合
サポート先のサロンで聞いた相談は、仕上がりへの不満から始まりました。全額返金と無料でのやり直しを求められ、応じた後も「別のサロンで直す代金」「その日の予定が潰れた分」と要求が続き、担当者の個人のSNSに直接連絡が来るようになった。サロンで繰り返し聞くのは、旅行代金など施術と関係のない補償の要求、担当者を辞めさせろという要求、電話で30分以上続くやり取りです。施術は元に戻せず、指名制では担当者が個人として矢面に立ちます。

三つに共通しているのは、確かめられない申し出を、その場で、一人で、判断させられていることです。飲食店なら会計と注文の食い違い、小売店なら返品の条件、サロンなら施術前の合意。傾向がつかめれば、次に何を入れるかが決まります。
【最低限やっておきたいこと②】傾向に合わせて、システムで場面と記録で守る
傾向が分かれば、優先すべき対応策を選べます。私が実際に勧めているものを、場面ごとに書きます。

飲食店の場合
飲食店の注文と会計には、モバイルオーダーと事前決済です。
お客様が自分の端末で注文すると、何を何時何分に頼んだかが、お客様の操作として残ります。「注文していない」「頼んだものと違う」が、記憶の言い合いではなく画面の確認で終わります。売り切れの商品は最初から選べず、追加料金は確定前に表示されるので、後から口頭で説明する場面そのものが減ります。券売機や事前決済なら、食べ終えた後に払わない、という場面は構造上起きません。私がサポートしている居酒屋では、店内・テイクアウト・デリバリーを分けて時刻付きの注文明細が残るので、申し出があったときに店長がその場で開けます。
参考記事:飲食店向けモバイルオーダーシステムおすすめ8選を比較|料金・機能・選び方を解説
参考記事:店内版モバイルオーダーシステム8選!独自調査・導入事例から読み解く店舗に最適なシステムとは?
小売店の場合
小売店の返品には、購入履歴が引けるPOSレジです。
レシートが無くても、会員情報や決済の記録から購入日と商品を照会できるレジなら、「いつ買ったか」の押し問答が短くなります。返品条件をレシートや画面に印字しておけば、「聞いていない」への答えも記録にあります。セルフレジは、金銭の受け渡しをめぐる「渡した」「もらっていない」を減らします。
参考記事:飲食店におすすめのPOSレジ12選を業態別に比較!費用・機能・選び方を解説
参考記事:セルフレジの仕組みとは?RFIDタグ方式やショッピングカート連動型など最新設備を紹介
サロンの場合
サロンの施術前の合意には、予約管理システムのカルテです。
要望した点、避けたい点、共有した写真、説明した制約を、予約と同じ画面に残します。仕上がりへの不満は、施術前に何を合意したかが残っていて初めて、正当な申し出か過大な要求かを分けられます。予約の変更や問い合わせは店の窓口に一本化し、担当者の個人の連絡先を使わない。指名制の店ほど、ここを店の運用にします。
参考記事:飲食店向け予約管理システムおすすめ6選!予約台帳の効率化に役立つ機能や選び方を解説
全業種で、残った場面を守るのがクラウドカメラと電話の録音です。
指針が事実確認の例に挙げているのが録音・録画で、警告や出入り禁止の根拠にもなります。カメラ選びで私が画質より先に見るのは、次の4つです。

日時で検索できるか、必要な部分を保存できるか、経営者がスマホで店の外から確認できるか、保存期間と自動上書きの設定です。報告を受けた夜に、経営者が自宅から該当の時間を見て、翌朝までに店長に指示を出せるかどうかで、カメラの価値が決まります。
電話は、録音と文字起こしが残るAI電話サービスを一次受けにすれば、やり取りを記録でき、執拗な電話が最初からスタッフに直接届く場面を減らせます。冒頭の「この通話は録音しています」の案内は、それ自体が抑止になります。
参考記事:クラウドカメラとは?導入メリットや注意点、実際の活用例について解説
参考記事:AI電話自動応答サービスとは?仕組みやメリットなど基礎知識を解説
外に出す個人情報も減らします。
名札のフルネームからスタッフがSNSで検索され、つきまとわれる。私が勧めているのは、名札はイニシャルかファーストネームにし、レシートの担当者欄は番号にすることです。社内では誰が担当したかを確認できる仕組みを残しながら、外に出す情報だけを減らします。サロンの予約ページやSNSに載せる担当者の情報も同じで、仕事用の名前と店の窓口で対応できないかを考えます。
録音・録画では個人情報保護法などを守り、目的、記録の範囲、閲覧できる人、保存・削除の扱いを定め、店頭の掲示と電話の案内を整えます。記録が無かった場面でも相談は受け付けます。「証拠が無いから対応できない」という運用にはしません。
システムでも残る場面は、責任者を呼ぶ基準と、責任者が引き取ることをセットで渡す
道具で減らしても、残る場面はあります。先ほどの三つの例は、どれも記録があっても「その場でどこまで応じるか」の判断が要ります。ここは文書の仕事です。
厚生労働省の指針は、一人で対応させないこと、上司が代わることを対処例に挙げ、十分に説明しても要求が繰り返される場合には一定時間の経過後に退店を求める例も挙げています。ただし、一律の制限時間は定めていません。何分にするかは店が決めます。
私が店と決めるときは、呼ぶ側の目安と、呼ばれた側が何を引き取るかを一緒に書きます。「困ったら店長を呼んで」だけでは、厨房にいる店長や施術中の店長を止める判断が、スタッフに残るからです。数字で決めておくと、断ることが個人の判断ではなく店の運用になり、スタッフは「店の方針です」と言い切れます。

2回や10分は、応援を呼ぶ目安です。その回数に達しただけで要求が不当になるわけではありません。反対に、暴力や脅迫があれば、時間を待たずに距離を取り、警察へ通報します。障害のあるお客様の配慮の申し出を、時間がかかるという理由で打ち切ることもしません。
引き継ぐ言葉も渡します。
「こちらは私だけでは決められないため、責任者が確認します」。飲食店なら「代金と補償はその場で決めず、店長が確認する」。小売店なら「列を止めてでも呼んでよい」。サロンなら「指名された本人ではなく、店長が引き取る」。店長が不在なら経営者、その電話がつながらないときは誰か。少人数の店ほど、そこまで書きます。
そして評価です。
店長は経営者に代わって、良かれと思って判断しています。少し値引きしてでも収めたほうが店のためになる、と考える。私自身、経営者として、その場が収まったと聞けば安心したくなります。ただ、収めた人だけが評価される店では、要求に応じ続けるほうが得になります。店の基準に沿って断ったスタッフに「低評価を付けられたじゃないか」と言えば、次は基準を使ってくれません。指針が禁じるのは、相談や事実確認への協力を理由とする不利益な取り扱いです。私はそれに加えて、苦情が消えたかではなく、何を約束し、誰に引き継ぎ、本人にどんな負担が残ったかで確かめる運用を勧めています。
10月1日までに、店の現場へ渡しておく8項目です。法律上の措置は指針と照合し、この一覧では営業中に使える状態かを見ます。

断ってよい基準
- 説明を続ける範囲と、責任者を呼ぶ目安がある。自分だけで応じ続けないためです。時間・回数・要求内容と、危険なときの即時対応を、店のルールに書きます。
- スタッフが約束できる範囲と、責任者が引き取る内容が分かる。返金や補償の判断をその場任せにしないためです。権限と不在時の対応を、引き継ぎ手順で確認します。
事実が残る記録
- 注文・会計・予約の内容と、提示した条件を確認できる。何を前提に購入・利用したかを確かめるためです。モバイルオーダーの履歴、POSの購入履歴、予約システムのカルテを実際に開いてみます。
- お客様の言葉と、店が答えたこと・約束したことが残る。次の人が説明を引き継ぐためです。日報に、日時と引き継ぎ先も残します。
相談と報告の窓口
- カスハラか迷う段階でも相談できると伝えてある。本人の判定待ちで対応が遅れないためです。相談方針と連絡先を、スタッフがその場で見られる場所に置きます。
- 店長の相談先と、緊急時の連絡方法が決まっている。交代した後も一人に負担を集中させないためです。経営者、外部の相談先、警察への連絡手順を確認します
スタッフが守られる評価
- 相談等を理由に不利益に扱わず、対応の経緯を確認する。苦情や低評価だけで、店の基準を使った人を責めないためです。報告を受けた責任者の確認項目に入れます。
- 対応後に本人の状態を確認する担当者が決まっている。お客様が帰ったことだけで対応を終えないためです。担当変更、休憩、面談などを誰が判断するか、手順に書きます。
渡した後は、店長が休みの場面を一つ想定して、誰に連絡し、何を伝え、どこに記録するかをスタッフとたどってみます。返答に詰まったところが、店側で決め足す内容です。
10月1日に変わるのは法律で、店の中で起きることは変わりません。変えられるのは、確かめられない申し出をスタッフ一人に判断させない仕組みです。
まず自分の店の傾向をスタッフから毎日聞いてつかみ、傾向に合わせてシステムで減らし、記録で守る。残った判断は基準と評価で店が引き取る。私は自分の店とサポート先で、この順番で進めています。
<出典>
従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール│厚生労働省
改正法等説明会を開催します│三重労働局
事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針│厚生労働省
新旧対照条文│厚生労働省
東京都『カスハラ条例』の認知度は?飲食店のカスハラ対策を調査│シンクロ・フード
※制度・公開資料の確認日:2026年9月9〜10日

