最低賃金は、労働者に支払う賃金の下限額を定めた制度であり、毎年10月頃に改定が行われます。
近年は物価上昇や人手不足を背景に大幅な引き上げが続いており、「自社の人件費はどれくらい増えるのか」「今後も上昇傾向は続くのか」と不安を感じる企業担当者や店舗運営者の方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、最低賃金制度の仕組みや引き上げによる企業・従業員への影響、毎年の改定の流れ、そして企業が取り組みたい具体的な対策方法までわかりやすく解説します。
最低賃金とは?毎年見直される制度の仕組みを解説
最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を定めた制度です。最低賃金法に基づいて毎年見直されており、最低賃金を下回る賃金を設定して労働者を雇用することはできません。
最低賃金の引き上げは、最低賃金付近で働く従業員の賃金だけに影響するわけではありません。企業によっては、賃金水準のバランスを保つために、最低賃金を上回る給与を支払っている従業員についても賃金の見直しが必要になる場合があります。
特に規模の小さい事業所ほど影響率が高く、2025年時点では30人未満の事業所で働く労働者の27.7%が改定後の最低賃金額を下回る水準で働いていたというデータもあります。
出典:厚生労働省|最低賃金に関するデータ・統計「影響率の推移」
ここでは、最低賃金制度の概要やどのように決定されるのか、そして毎年の改定時期について解説します。
最低賃金制度の概要
最低賃金制度は、雇用形態を問わず正社員はもちろんパートやアルバイトを含むすべての労働者に適用される、賃金の最低ラインを定めた制度です。
最低賃金には都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業に適用される「特定最低賃金」の2種類があり、事業者は自社が該当する双方の金額を確認したうえで、高い方の水準を下回らないよう賃金を設定する必要があります。
最低賃金の種類
- 地域別最低賃金
都道府県ごとに定められ、原則としてその地域で働くすべての労働者に適用されます。 - 特定最低賃金
特定の産業について、地域別最低賃金より高い水準が必要と認められた場合に定められます。
店舗や施設を運営する事業者にとっては、雇用形態にかかわらず全従業員の賃金水準を把握しておくべき基本的な制度といえます。
最低賃金はどのように決まるのか
最低賃金は、厚生労働省に設置された中央最低賃金審議会が全国的な引き上げの目安額を示し、それをもとに各都道府県の地方最低賃金審議会が地域の実情を踏まえて審議・決定するという流れで定められます。
決定された金額は都道府県労働局長による公示を経て、最終的に厚生労働大臣が正式に発表する仕組みになっており、地域ごとの経済状況や生活費の違いが反映される点が特徴です。
全国一律の制度ではないため、複数エリアに店舗を展開する事業者は、進出先ごとの最低賃金額を個別に確認しておく必要があります。
最低賃金は毎年10月頃に改定される
最低賃金は毎年見直しが行われており、例年7月から8月にかけて中央最低賃金審議会が引き上げの目安額を公表し、それを受けて各都道府県で金額が確定します。
決定した最低賃金は10月1日前後から都道府県ごとに順次発効するため、地域によって発効時期に数日から数週間のズレが生じる点にも注意が必要です。
毎年のスケジュールをあらかじめ把握しておくことで、給与改定や採用計画を余裕をもって準備できます。
最低賃金引き上げによる企業への影響

最低賃金の引き上げは、企業にとって人件費の増加だけでなく、利益率や賃金体系にも影響を与えます。特に、パートやアルバイトなど最低賃金に近い賃金で働く従業員が多い企業では、改定前から影響を把握しておくことが重要です。
人件費が増加する
最低賃金が引き上げられると、対象となる従業員の時給を上げる必要があるため、給与総額が増加します。また、給与の増加に伴って、企業が負担する社会保険料や時間外労働に対する割増賃金などにも影響する場合があります。
例えば、時給1,000円の従業員10人を雇用しており、最低賃金の改定によって時給を50円引き上げる場合、1人あたり月80時間勤務すると仮定すると、月4万円の人件費増加になります。
利益率が低下する可能性がある
人件費が増加しても売上を同じように伸ばせなければ、利益率が低下する可能性があります。特に飲食店や小売業など、人件費が経営コストに占める割合の大きい業種では注意が必要です。
人件費の増加分を商品やサービスの価格に反映する方法もありますが、競合との価格差や顧客離れを懸念して、価格転嫁が難しいケースもあります。
そのため、業務効率化や省人化によって、限られた人員でより多くの業務を処理できる体制を整えることが重要です。
賃金体系の見直しが必要になる
最低賃金の引き上げによって、最低賃金付近で働く従業員の賃金だけを上げると、経験や役職などによる従業員間の賃金差が小さくなる場合があります。
そのため、最低賃金への対応をきっかけとして、昇給基準や評価制度、役職・経験に応じた賃金設定などを見直すことも重要です。最低賃金を上回るだけでなく、従業員が納得できる賃金体系を整えることで、人材の定着にもつなげやすくなります。
最低賃金引き上げによる従業員や社会への影響
最低賃金の引き上げは、企業の人件費だけでなく、労働者の収入や消費活動、人材確保、企業の生産性などにも影響を与えます。
ここでは、最低賃金引き上げによって期待される主な効果を解説します。
労働者の所得向上につながる
最低賃金が引き上げられると、最低賃金付近で働く従業員の収入が増加し、生活費の負担軽減や生活水準の改善につながる可能性があります。また、所得が増えることで消費活動が活発になり、地域経済への波及効果も期待されます。
近年は物価上昇が続いていることから、最低賃金の引き上げは、働く人の購買力を維持するための取り組みとしても重要性が高まっています。
人材確保や定着率向上につながる可能性がある
賃金水準を引き上げることで、求人における企業の競争力が高まり、人材を確保しやすくなる可能性があります。また、給与への不満が原因となる離職を防ぎ、従業員の定着率向上につながることも期待できます。
特に人手不足が深刻な業界では、最低賃金の引き上げをきっかけに、賃金だけでなく働きやすさや待遇なども含めて雇用環境を見直すことが重要です。
企業の生産性向上を促すきっかけになる
人件費が増加すると、企業はこれまで人手で対応していた業務を効率化したり、DXや省人化設備を導入したりする必要性が高まります。
例えば、セルフレジや券売機、モバイルオーダーなどを導入して定型業務を自動化すれば、従業員をより重要な業務に配置できるようになります。
最低賃金の引き上げを単なるコスト増加と捉えるのではなく、生産性向上に向けた業務改善の機会として活用することも大切です。
省人化・人件費削減手段としておすすめの対策方法

最低賃金の引き上げによる人件費の増加に対応するには、単純に人員を減らすのではなく、業務を効率化して少ない人数でも運営できる体制を整えることが重要です。
ここでは、店舗や施設などで活用しやすい代表的な省人化・人材確保の方法を紹介します。
最低賃金の引き上げ対策として検討したい方法
- セルフレジを導入する
- 券売機を導入する
- モバイルオーダーを導入する
- 配膳ロボットを活用する
- 外国人材の採用を検討する
セルフレジを導入する
セルフレジを導入すると、商品の精算を顧客自身で行えるようになり、会計業務に必要なスタッフの負担を軽減できます。
特に会計業務の多い小売店や商業施設では、レジ対応にかかる人員を抑えながら、混雑時の対応力を高める方法として活用できます。
参考記事:セルフレジとは?仕組みや使い方・導入するメリット・費用についてまるごと解説
券売機を導入する
券売機を導入すれば、商品の注文から会計までを自動化できるため、注文受付やレジ業務にかかるスタッフの負担を減らせます。
飲食店をはじめ、食券を利用する施設などでも活用しやすく、限られたスタッフを調理や接客などの業務に集中させやすくなります。
モバイルオーダーを導入する
モバイルオーダーは、顧客がスマートフォンなどから商品を注文できる仕組みです。スタッフが注文を聞き取る業務を減らせるため、注文対応にかかる工数の削減が期待できます。
飲食店では、混雑時の注文受付を効率化し、店舗運営の省人化につなげる方法として活用されています。
参考記事:モバイルオーダーとは?メリット・デメリットや仕組みと主な支払い方法・活用事例を紹介
配膳ロボットを活用する
配膳ロボットを活用すると、料理や商品を客席まで運ぶ業務を自動化できます。スタッフが配膳に費やす時間を減らし、その分を接客や調理など人が対応すべき業務に振り分けられる点がメリットです。
特に飲食店など、配膳業務の負担が大きい現場で活用されています。
参考記事:配膳ロボットとは?導入店が増加している背景や主要な機能、価格相場も解説
外国人材の採用を検討する
省人化だけで人手不足を解消することが難しい場合は、外国人材の採用を検討する方法もあります。特定技能制度などを活用することで、人材不足が課題となっている分野で必要な人材を確保できる可能性があります。
ただし、外国人材を採用する場合は、在留資格や受け入れ手続きなどを確認する必要があります。さらに、ただ受け入れるだけでなく、長期的に働いてもらえる環境を整えることも重要です。
参考記事:外国人正社員を採用する企業必見|採用から定着までの完全マニュアル
最低賃金の影響を理解して早めに対策を進めよう
最低賃金は毎年見直されており、今後も引き上げが続く可能性があります。企業にとっては人件費の増加が大きな負担となる一方、賃金体系や業務効率化を見直すきっかけにもなります。
最低賃金の引き上げに備えるには、現在の賃金が改定後の最低賃金を下回らないか確認するとともに、人件費への影響を事前に試算しておくことが重要です。そのうえで、セルフレジや券売機、モバイルオーダー、配膳ロボットなどを活用した省人化や、外国人材の採用など、自社の状況に合った対策を検討しましょう。
最低賃金の影響を正しく理解し、早い段階から賃金体系の見直しや生産性向上に取り組むことで、人件費の増加に対応しながら持続的な事業運営につなげられます。


