キッチンカー(移動販売)は、店舗を開業するよりも開業資金が低コストなことから、近年個人事業主や副業として始める人も多い人気の開業手段です。
一方で、キッチンカーを開業するには、出店場所の地域を管轄している保健所で営業許可証を取得しなければなりません。
営業許可証の取得には、食品衛生責任者資格の取得を含めた対応が必要になりますが、仕込み場所の確保も必須要件の1つです。
しかし、仕込み場所の条件は地域によって異なるため、地域ごとの条件を把握する必要がある上に、場所の確保が難しいという方も少なくありません。
本記事では、キッチンカー(移動販売)の開業時に仕込み場所が必要な理由や、仕込み場所を確保する方法について解説します。
キッチンカー(移動販売)開業に欠かせない仕込み場所とは
キッチンカー(移動販売)の開業に必要な仕込み場所とは、キッチンカーの営業中に販売する飲食物の下準備(一次処理)を行う場所のことです。場合によっては一部の調理を行った上で、キッチンカーで仕上げ作業を行うケースもあります。
2021年の食品衛生法改正によって、キッチンカーは飲食店と同じ「飲食店営業許可申請」の取得が必須となりました。
飲食店営業許可を取得するには、食品衛生責任者の資格取得に加え、食品衛生法に則った設備・衛生環境を整備する必要があります。
その1つが「仕込み場所」であり、営業許可を取得する地域を管轄している保健所の基準に合わせて、仕込み場所を確保しましょう。
参考記事:キッチンカー(移動販売)開業に必要な資格一覧!調理師免許の必要性や便利な資格まで徹底解説
キッチンカーの営業に仕込み場所が必要な理由
キッチンカーを営業する際に仕込み場所が必要なのは、提供する飲食物に使用する食材や調理器具を衛生的に管理・使用するためです。
料理を提供するためには、野菜や果物、肉・魚などの食材を複数組み合わせて調理します。このとき、食材に付着した雑菌が調理道具やほかの設備、包装容器などに飛び散ると、食中毒が発生する原因になりかねません。
また、衛生管理の行き届いていない場所で下準備を行うと、異物が混入する恐れもあります。そのため、食材の仕込みを行う段階の作業は、保健所が定める衛生基準を満たした環境下で行うことが大切です。
キッチンカーの中で仕込みを行うのではなく、仕込みを行う専用の場所を準備しておく必要があります。
キッチンカーの仕込み場所を確保する4つの方法
キッチンカーを開業するにあたり、仕込み場所を確保する方法は以下の4通りです。
- 専用の物件を借りて仕込み場所として利用する
- 飲食店に依頼して仕込み場所を利用させてもらう
- 仕込み場所を提供しているサービスを利用する
- キッチンカーに仕込み場所をつくる
それぞれ、具体的にどのような点を意識して仕込み場所として整えれば良いのか、必要な設備や注意点について解説します。
専用の物件を借りて仕込み場所として利用する
キッチンカーの仕込み場所を確保するには、専用の物件を借りて仕込み場所として利用する方法が挙げられます。
基本的に仕込み場所は、営業専用のキッチン・厨房設備を整えておく必要があるため、仕込み場所として利用するための専用の物件を確保する方法で対応可能です。
住居専用地域にある物件の場合は、仕込み場所として利用できない点に注意しましょう。また、仕込み場所として使用するには、基本的に二層シンクが必要になります。
そのほか、管轄している保健所によって、どこまでの作業工程を仕込みとみなすか、といった基準が異なる場合もあるので、事前に確認しておくとスムーズに準備が進められます。
仕込み場所が確保できれば、飲食店営業許可の申請を管轄地域の保健所に提出しましょう。そのほか、飲食関連の事業を営む際に必要な各種届出については、以下の記事で詳しく解説しています。
参考記事:飲食店開業に必要な届出一覧!開業届を出すタイミングと必須資格も紹介
飲食店に依頼して仕込み場所を利用させてもらう
キッチンカーを開業する際、飲食店に依頼して仕込み場所を利用させてもらう選択肢もあります。ただし、テナントを又貸しする形になることから、シェアキッチンとしての貸し出しに対応できる契約内容になっている物件なのか、確認した上で利用することが重要です。
店舗のクローズ時間のみ貸し出していたり、定休日であれば利用可能としていたりする飲食店もあるので、シェアキッチンの情報がないかチェックしておくと良いでしょう。
利用する際は、必ず詳細に利用契約を締結し、後々トラブルに発展することがないよう、利用時間や料金なども取り決めておくと安心です。
仕込み場所を提供しているサービスを利用する
キッチンカー事業を始める際、一時利用できる施設やサービスを利用して、仕込み場所を確保する方法もあります。
レンタルキッチンやシェアキッチン・クラウドキッチンと呼ばれるサービスで、キッチンカーの仕込み場所や、デリバリー専門店(ゴーストレストラン)の開業に利用されている点が特徴です。
このようなサービスを利用すれば、仕込み場所専用の物件を借りる固定費を安く抑えられます。必要な時間・曜日に限定して利用ができるので、キッチンカーの営業時間に応じて利用を検討しましょう。
ただし、利用予約が埋まる可能性もあるので、空きはあるか、定期利用契約はできるかなど、利用条件や予約方式なども確認しておく必要があります。
キッチンカーに仕込み場所をつくる
キッチンカーを開業するにあたり、仕込み場所を確保するためには、キッチンカーの内部に仕込み場所をつくる選択肢もあります。ただし、給排水設備の容量が200Lを超えるタンクを設置する必要があるため、車両の大きさによっては対応できないこともあるので注意しましょう。
また、車両には積載量の制限が設けられており、タンクを取り付けた際に車内の厨房機器や設備類の重さを合わせると、最大積載量を超過する可能性があります。
仕込み場所を兼ねたキッチンカーの車両を導入したい場合は、タンクの容量だけでなく、車両全体の積載量の制限も確認しておくことが重要です。
キッチンカーの仕込み場所を自宅にするのは可能?
キッチンカーの仕込みを、自宅のキッチンで行うことはできません。これは、私生活で使用するキッチンと、飲食店の営業時に使用するキッチンを分けなければならないことが理由です。
例えば、戸建て住居の2階のキッチンを私用とし、1階に新たに仕込み場所専用のキッチンを増設するのであれば、問題ありません。
一方で、自宅で普段から使用しているキッチンで、仕込みを行うことはできないため、必ず仕込み専用で使用する場所を確保しておく必要があります。
飲食店を自宅で開業する場合も同様です。自宅を飲食店として開業する際のポイントや注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
参考記事:飲食店を自宅で開業する方法とは?営業許可の取得方法や資金の目安・必要資格について解説
キッチンカーの仕込み場所がない場合の対処法
キッチンカーの仕込み場所がない場合、どのようにして確保すれば良いのかを解説します。活用頻度によっては、専用の物件を借りた方が良い場合もあるので、仕込み場所の確保に必要な費用や営業場所の立地なども考慮した上で検討すると良いでしょう。
レンタルキッチン・シェアキッチンを活用する
キッチンカーの仕込み場所がない場合には、レンタルキッチン・シェアキッチンを活用する方法がおすすめです。もっとも手軽に対処できる方法のため、はじめてキッチンカーを経営する人にも利用しやすいでしょう。
また、レンタルキッチンやシェアキッチンによっては、時間貸しに対応しているところもあるので、定期契約を締結せずに利用したい方にも最適です。
例えば、平日は会社員をしていて副業で週末のみキッチンカーを営む場合、週末のみレンタルキッチンやシェアキッチンを利用する選択肢もあります。
利用頻度や時間に応じて、レンタルキッチンやシェアキッチンを活用するか、仕込み場所専用の物件を契約するかを検討しましょう。
自宅敷地内にプレハブ・コンテナを建てる
自宅敷地内にプレハブやコンテナを建てて、キッチンカーの仕込み場所として設備を導入する方法もあります。自宅が賃貸物件の場合は利用できませんが、庭付きの戸建てや土地を所有しているのであれば、検討してみるのも良いでしょう。
自宅の建物内と切り離せるため、衛生環境も維持しやすくなります。ただし、プレハブやコンテナを建てる際の費用が高額になりやすい点や、一般住宅と比べて断熱性能が低くなりやすいことから、真夏や真冬には温度変化に対する対策を講じなければなりません。
食品の保管状況だけでなく、仕込み作業中の熱中症にも注意が必要です。一方で、レンタルキッチンやシェアキッチンと比べて、自分が使用したいタイミングで自由に使えるメリットがあります。
費用の負担も考慮しつつ、自分に合った仕込み場所を確保することが大切です。
まとめ
キッチンカーを開業するには、仕込み場所の確保が欠かせません。ただし、自宅のキッチンをそのまま仕込み場所として使用することはできないため、レンタルキッチンやシェアキッチンの利用を検討しておく必要があります。
また、状況によっては、仕込み場所専用の賃貸物件を借りたり、所有している土地の敷地内にプレハブやコンテナを建てたりして、厨房設備を導入するのも良いでしょう。
キッチンカーの開業費用として、準備している資金の中でやりくりできる選択肢を検討することが大切です。また、以下の記事ではキッチンカーの開業に必要な費用の目安についても解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。