2024年7月に、約20年ぶりとなる新紙幣が発行されます。各業界では新紙幣への対応が求められています。
特に、レジや券売機などによる会計・決済業務を行う飲食店や小売店などの業種においては、早めに対応することで、現場の混乱を最小限に抑えられるでしょう。
そこで、この記事では2024年7月の新紙幣発行の概要や飲食店において発生する課題・機会について解説します。また、券売機を新紙幣に対応させる方法や、必要な費用を抑えるポイントも紹介するため、ぜひ参考にしてください。
2024年7月の新紙幣発行は、いつから?
財務省と日本銀行は、新紙幣の発行を2024年7月3日から開始すると公表しました。
現在流通している券種の人物が、以下のように変更されます。
紙幣 | 2024年6月まで | 2024年7月から |
---|---|---|
一万円札 | 福沢諭吉 | 渋沢栄一 |
五千円札 | 樋口一葉 | 津田梅子 |
千円札 | 野口英世 | 北里柴三郎 |
日本銀行から発行された新紙幣は、各金融機関へと配布されたのち、消費者へと流通する予定です。また旧札となる現在使用している紙幣も、引き続き利用可能です。そのため、両替する必要はありません。
新紙幣が発行される理由
新紙幣が発行される大きな理由に、「偽造紙幣の防止」が挙げられます。約20年ごとに変更する際に、最先端技術を取り入れることで偽造が困難になります。
例えば、今回の新紙幣には、以下のような偽装防止技術が盛り込まれています。
偽装防止技術 | 内容 |
---|---|
3Dホログラム技術 | お札の角度により、肖像画が回転しているように見える技術 |
高精細すき入れ模様 | 肖像の周囲に、光に透かすことで模様が浮かび上がるように見える技術 |
マイクロ文字 | カラーコピーでも再現できない細かい文字技術 |
また、より多くの人が使用しやすいユニバーサルデザインを目指しており、今後見込まれるインバウンド需要も見据えて感じの読めない人でもわかるように、アラビア数字がメインになっています。
今回の新紙幣では、券種によって識別マークの位置を変更したり、洋数字を大きく表記したりする改良も行われています。
3Dホログラム技術は、薄い紙幣に組み込まれ、肖像画が回転して見える仕組みになっているのは世界初ともいわれています。
新紙幣発行による経済効果
経済調査部首席エコノミストである永濱利廣氏は、以下の3つの視点から新紙幣発行の経済効果は約1.6兆円と算出しています。
- 新紙幣発行に伴う紙幣・効果の発行コスト
- 金融機関のATM・キャッシュディスペンサーなどの改修・買い替えコスト
- 自動販売機の改修・買い替えコスト
参照:経済調査部 主席エコノミスト 永濱利廣氏「新紙幣・硬貨発行で期待される特需」
【飲食店・小売店向け】新紙幣発行による課題と機会
経済効果が高いといわれている新紙幣発行ですが、実は店舗経営においては「課題」と「機会(チャンス)」の両方の側面をもっています。
そこで、ここでは飲食店・小売店向けに新紙幣発行による課題と機会について解説します。
新紙幣発行の「課題」とは
新紙幣に対応しなければならない飲食店・小売店における一番の課題は、「対応にかかるコスト」でしょう。新紙幣に対応するには、新たな設備の導入・更新が必要になるためです。
例えば、すでに導入している券売機では新紙幣に対応できないため、新たに100万円の券売機を導入することになった場合には、100万円の損失が発生すると考えられます。
新紙幣発行の「機会」とは
新紙幣対応のために新たな設備を導入する際、現在の経営課題を解決するような設備を選定することで、新たな機会になる可能性があります。
例えば、「客単価が低い」と悩んでいる飲食店が、従来のボタン式券売機からタッチパネル券売機に変更したとします。タッチパネル券売機では、単品メニュー以外にも「セットメニュー」や「おすすめ追加メニュー」などを画面上に表示できます。そのため、顧客の視認性が向上し、客単価の向上も期待できます。
タッチパネル券売機には、他にもインバウンド対応、キャッシュレス決済への対応が可能になるなどのメリットがあるため、さまざまな経営課題の解決に役立つ可能性があるのです。
このように、新紙幣対応だけでなく「店舗の課題を解決できる設備」を選定することで、店舗運営のさらなる発展につながるでしょう。
券売機を新紙幣に対応させる方法
ここでは、すでに券売機を導入している店舗向けに、券売機を新紙幣に対応させる方法を解説します。
新紙幣対応の券売機を導入する
新紙幣に対応している券売機に買い替えることが一つ目の方法です。
コストが最も高額になりやすい方法である一方、店舗に適した機能をもつ券売機を導入することで、店舗運営の課題を改善する機会が得られる可能性もあります。
新紙幣対応の券売機は約100万~150万円が費用相場です。そのため、資金が確保できており、店舗が抱える課題を解決したい場合に、この方法がおすすめです。
券売機を更新する
券売機を提供している各メーカーは、すでに券売機を導入している店舗に向けて新紙幣対応のためのアップデート(更新)を用意しています。
この更新は基本的に有償で、費用相場は約50万~120万円です。各メーカーや導入機器により金額は異なるため、問い合わせて確認してください。
券売機の大手メーカーであるグローリー社は、以下のように注意喚起しています。
「現在お使いの弊社製紙幣取り扱い製品において、新しい紙幣を使用するためには製品に改造を施していただく必要がございます。改造が施されず、新しい紙幣の取り扱いに伴う不具合が発生した場合、弊社では責任を負いかねますのでご注意ください。」
※グローリー株式会社「弊社製紙幣取り扱い製品をご使用中のお客様へ(2023年12月12日更新)」より一部抜粋
また、芝浦自販機株式会社も、新紙幣対応の対応機種と作業開始時期について公表しています。利用している場合は、早めに問い合わせしましょう。
キャッシュレス決済に切り替える
現金は、約20年に1回新紙幣が発行されます。そのため、この機会に現金対応をやめてキャッシュレス決済に切り替えることも一つの方法です。
キャッシュレス決済とは、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済などの現金以外の支払い方法です。海外ではすでに主流の支払い方法であり、日本においても利用率は伸び続けています。
特にインバウンド対応が必要な場合や、客層が若めの年代中心である場合におすすめの方法です。
券売機の新紙幣対応にかかるコストを抑えるポイント
新紙幣対応には、約50万円以上の費用がかかります。そこで、ここでは新紙幣への対応にかかるコストを抑えるポイントを解説します。
助成金・補助金を利用する
補助金・助成金とは、国や地方自治体が企業の取り組みに対して支援金を給付する制度です。受給できれば返済不要であることから多くの企業が利用しています。
補助金・助成金を受給するには、各制度の要件を満たすことが必要です。助成金は要件を満たせば受給できますが、補助金はさらに審査に通過しなければなりません。
新紙幣対応に利用できる可能性がある補助金・助成金を以下にまとめました。
- IT導入補助金
- ものづくり補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 中小企業省力化投資補助金
- 業務改善助成金
- 働き方改革推進支援助成金
レンタル・リースで導入する
新たな設備を導入する場合やキャッシュレス決済に切り替える場合には、レンタル・リースを活用することで、初期費用を大幅に低減できます。
レンタル・リース契約とは、月額の利用料を支払い、設備を借り受けることです。それぞれの特徴を以下にまとめました。
レンタル
初期費用は無料であることが多く、リースよりも月額料金は高額なのが一般的。短期から長期まで期間を問わず契約でき、途中解約も可能です。
リース
初期費用は無料であることが多く、一般的にレンタルよりも月額料金を抑えて契約できます。長期契約が基本で、途中解約は原則不可。また、契約前に審査を受ける必要があります。
購入・レンタル・リースのどの導入方法が自社に適しているか、よく検討することがおすすめです。
まとめ
この記事では、2024年7月に発行される券売機の新紙幣への対応方法や、かかるコストを抑えるポイントについて解説しました。
新紙幣への対応が間に合わないと、店舗の運営が立ち行かなくなることから大打撃を与えることは必至です。「対応にかかる費用を準備できるか不安」という飲食店や小売店は、補助金・助成金の利用やレンタル・リースで券売機を導入するなどの費用を抑える方法を実施すると良いでしょう。
また、この機会に新紙幣に対応するだけでなく、コストを抑えながら経営課題に取り組むこともおすすめです。今のうちに計画立てて、早めに対応しましょう。