出店コストを抑えつつ、早期開業を目指したい店舗オーナーにとって居抜き物件は魅力的な選択肢です。しかし、物件情報を見ると必ずと言っていいほど目にする権利金という項目について、正確に理解できていないケースも少なくありません。
敷金や礼金との違いが分からないまま契約を進めてしまうと、想定外の出費や後悔につながる可能性もあるでしょう。本記事では、居抜き物件における権利金の基本的な仕組みから相場、注意点、判断基準までを整理し、店舗経営者の目線でわかりやすく解説します。
居抜き物件の権利金とは何か

居抜き物件を検討する際、権利金という項目を見て戸惑う方は少なくありません。敷金や礼金と違い、支払う目的や返金の有無が分かりにくいのが特徴です。
意味を理解しないまま契約すると、想定以上の初期費用が発生する可能性があります。まずは権利金の基本的な意味と役割を正しく押さえ、費用の妥当性を判断できるようにしましょう。
- 権利金の基本的な意味
- 敷金・礼金との違い
権利金の基本的な意味
居抜き物件における権利金とは、前テナントが使用していた内装や設備、什器、配管などをそのまま引き継ぐ対価として、次の入居者が支払う金銭のことを指します。一般的には、物件のオーナーではなく、前の借主に対して支払われるケースが多く、造作譲渡代金や営業権の対価として扱われることも少なくありません。
例えば飲食店であれば、厨房設備や空調設備、カウンター、照明などを一から揃える必要がないため、初期投資を大幅に抑えられる可能性があります。その代わりに、これらの設備を使用できる権利として権利金を支払う仕組みです。金額は一律ではなく、立地条件、設備の新しさ、営業規模、業種などによって大きく異なります。
重要なのは、権利金が保証金のように後日返金される性質のものではなく、原則として支払ったら戻らない費用である点です。そのため、単なる初期費用としてではなく、事業投資の一部として費用対効果を見極める姿勢が欠かせません。
敷金・礼金との違い
権利金と混同しやすい費用に敷金や礼金がありますが、それぞれの性質は大きく異なります。敷金は、家賃滞納や原状回復費用に充てるために預ける担保金的な性質を持つ費用で、退去時に精算され、未使用分は返還されるのが一般的です。
一方、礼金は物件の貸主に対する謝礼金として支払うもので、返金されない点では権利金と似ていますが、対象となる相手が異なります。礼金はオーナーに支払うのに対し、権利金は前テナントに支払う費用です。
居抜き物件では、前テナントに支払う造作譲渡代金(営業権を含むことも)を「権利金」と呼ぶ募集が見られます。一方で、権利金を貸主へ支払う金銭として扱うケースもあるため、契約書上の名目と支払先を必ず確認しましょう。
さらに、礼金には物件を貸してもらう対価という意味合いがありますが、権利金は設備や内装といった有形資産の引き継ぎが含まれることが多いようです。この違いを理解しないまま契約すると、総額だけで判断してしまい、実際に何にお金を払っているのか分からない状態になります。それぞれの役割を正しく把握することで、費用の妥当性や交渉余地の分析もしやすくなるでしょう。
居抜き物件に権利金が発生する理由

居抜き物件で権利金が発生する背景には、単なる場所代以上の価値が含まれていることが関係しています。内装や設備といった目に見える資産だけでなく、営業実績や立地の優位性といった目に見えにくい要素も金額に反映されます。なぜ権利金が必要になるのか、その理由を理解することで適正価格の見極めにつながるでしょう。
- 設備投資の回収
- 営業基盤の引継ぎ価値
設備投資の回収
前テナントは、出店時に厨房設備や内装工事、什器の導入などに多額の初期投資を行っています。しかし、事業の撤退や移転が早期に決まった場合、それらの投資額を十分に回収できないまま閉店となるケースも少なくありません。そこで、未回収分を補填する意味合いとして設定されるのが権利金です。
居抜き物件では、これらの設備をそのまま使えるため、新たな借主は大きな設備投資をせずに営業を開始できるという利点を得られます。結果として、前テナントの負担していた設備投資の一部を引き継ぐことになり、その対価として権利金が設定される仕組みです。
新規出店側にとっては初期費用が抑えられるというメリットがある一方で、設備の状態や耐用年数を確認せずに契約すると想定外の修繕費用が発生するリスクもあるため、事前の確認が重要です。
営業基盤の引継ぎ価値
居抜き物件の権利金には、設備以外にも営業環境そのものの引継ぎ価値が含まれています。例えば、同業態で引き継ぐ場合、近隣住民や通行客にすでに店舗の存在が認知されているケースが多く、新規開店よりも集客面で有利に働くことがあります。
また、看板や導線、レイアウトが整っている物件では、開店準備にかかる時間を短縮でき、早期に売上を立てられる可能性も高まります。さらに、好立地で長年営業されていた物件ほど集客動線や商圏が確立されている傾向があり、その立地価値自体が権利金に反映されることも。設備という目に見える資産だけでなく、こうした無形の営業価値も含めた総合的な「引継ぎ対価」として権利金が設定されている点を理解しておくことが重要です。
居抜き物件の権利金の相場感

居抜き物件の権利金は、物件ごとに大きく差が出やすく「いくらが相場なのか分かりにくい」と感じる人も多い項目です。立地条件や店舗面積、設備の新しさなどによって金額は大きく変動します。目安となる基準を知ることで、適正価格かどうかを判断しやすくなります。
- 一般的な目安
- 設備内容による変動
一般的な目安
居抜き物件の権利金に明確な定価はありませんが、実務上の目安としては家賃の数か月分から1年分程度で設定されるケースが多い傾向にあります。例えば月額家賃が20万円であれば、100万円前後から200万円程度がひとつの目安になることがあります。ただし、都心部や駅前立地などの人気エリアでは、家賃の1年分以上に設定されることも珍しくありません。
一方、郊外や集客力が弱い立地では、数十万円程度に抑えられるケースもあります。権利金の金額はあくまで需要と供給のバランスによって決まるため、相場だけで判断せず、立地条件や競合状況も含めた総合的な視点で検討することが重要です。
設備内容による変動
権利金の金額に大きく影響する要素の一つが、残されている設備の内容や状態です。例えば、厨房機器や空調設備、排気ダクトなどが一式そろっており、すぐに営業を開始できる状態であれば、その分だけ権利金は高く設定されやすくなります。
逆に、設備が老朽化している、もしくは一部が使用できない状態である場合は、引継ぎ後に修繕コストがかかるため、権利金は低額になる傾向です。また、造作が特殊すぎる場合、自店舗の業態に合わず撤去工事が必要になることもあり、その場合は権利金の減額交渉材料として活用できます。金額だけでなく、実際に使える設備がどの程度残っているかを確認することが、適正な判断につながります。
造作譲渡料はどう決まる?
造作譲渡料は明確な算出ルールがあるわけではなく、複数の要素を総合的に判断して決定されます。店舗設備の残存価値だけでなく、立地条件や業態の適合性なども加味されるため、同じ規模の物件でも金額が大きく異なるケースがあります。仕組みを理解しておくことで、適正価格かどうかの判断や交渉の材料として活用可能です。
- 設備の取得価格と残存価値
- 設備の状態とメンテナンス状況
- 業態との相性
- 立地条件と需要バランス
1.設備の取得価格と残存価値
造作譲渡料の算定でまず確認されるのが、内装工事や厨房設備などにかかった取得価格と、現在の残存価値です。新品で導入した設備ほど評価は高くなりやすく、導入から年数が経過した設備は減価償却を考慮して価値が下がります。
特に厨房機器や空調設備などは金額が大きく、譲渡額に影響しやすいポイントです。帳簿上の価格ではなく、中古市場での相場を参考に評価されることも多く、導入時の金額と実際の評価額に差が出るケースも珍しくありません。
2.設備の状態とメンテナンス状況
同じ機器や内装でも、使用状況によって評価は大きく変わります。日常的に清掃や点検がされている店舗では、引き継ぎ後もすぐに営業できる状態であるため、造作譲渡料が高めに設定されやすくなります。
反対に、劣化が進んでいたり修理が必要な設備が多い場合は、買い手側の負担が増える分、減額の対象となることが一般的です。動作確認が取れない機器があれば、その点は交渉材料として活用できます。
3.業態との相性
造作譲渡料は、設備の内容が次の業態にどれほど適しているかによっても左右されます。例えば居酒屋から居酒屋への引き継ぎであれば、厨房や排気設備をそのまま利用できる可能性が高く、評価も上がりやすくなります。
一方、ラーメン店をカフェとして使う場合は、不要な設備の撤去費用がかかるため、その分造作譲渡料は下がる傾向です。使える設備が多いほど、買い手にとっての価値も高くなるのです。
4.立地条件と需要バランス
立地は、造作譲渡料に間接的ながら大きな影響をあたえます。駅近や繁華街など、出店希望者が多いエリアでは物件そのものの希少性が高く、設備以上の価値が価格に上乗せされることがあります。
反対に、需要が少ない立地では設備が充実していても高額な譲渡料はつきにくくなるでしょう。エリアの出店ニーズや競合状況も含めて、相場感を見極めることが大切です。
居抜き物件の権利金の内訳
居抜き物件の権利金は、単に設備代として支払うものではなく、複数の要素が組み合わさって決まります。内装や設備といった目に見える資産だけでなく、立地や営業実績といった目に見えない価値も含まれているのが特徴です。内訳を理解することで、提示された金額が妥当かどうかを判断しやすくなり、無駄な出費やトラブルを防ぐことにもつながります。
- 有形資産部分
- 無形資産部分
有形資産部分
有形資産とは、実際に目で見て確認できる設備や内装などの価値を指します。厨房機器、空調設備、カウンター、什器、照明、内装工事費などが該当します。これらは新品価格だけでなく、使用年数や状態を加味した中古価値で評価されることが一般的です。
例えば高額な厨房機器や排気ダクトがそのまま使用できる場合、初期投資を大幅に抑えられるため、権利金に反映されやすくなります。逆に、老朽化が進んでいたり修繕が必要な設備が多い場合は、減額交渉の対象になります。
無形資産部分
無形資産とは、目には見えないが、事業を始めるうえで大きな価値をもつ要素を指します。具体的には、営業実績、地域での認知度、常連客の存在、立地条件、競合状況などが含まれます。
繁華街や駅前など人通りが多いエリアにある店舗は、それだけで集客力が高く、ゼロから開業するよりも有利なスタートが切れるでしょう。そのため、設備以上の価値として無形資産分が上乗せされるケースも。売上実績や来店数のデータを確認することで、金額の妥当性を見極めやすくなります。
居抜き物件の権利金は払うべきか
居抜き物件の紹介を受けたとき、多くのオーナーが悩むのが権利金を支払う価値があるのかという点です。初期費用を抑えたい一方で、設備や立地の魅力に惹かれるケースも少なくありません。
権利金は単なる追加費用ではなく、事業のスタートを左右する重要な判断材料となります。ここでは、支払うメリットとデメリットの両面を整理して判断基準を明確にします。
- 支払うメリット
- 支払うデメリット
支払うメリット
権利金を支払う最大のメリットは、初期投資を抑えながら早期開業ができる点です。内装や設備がそのまま残っているため、スケルトン物件のように一から工事をする必要がなく、開業準備にかかる時間とコストを大幅に削減できます。
また、前店舗の内装や動線がそのまま活用できる業態であれば、什器や家具の追加購入も最小限に抑えられます。設備投資を抑えることで、資金を広告宣伝や運転資金に回しやすくなる点も魅力です。加えて、繁華街や駅前といった好立地の物件を確保しやすいことも大きな利点といえます。
支払うデメリット
一方で、権利金には明確なデメリットも存在します。まず、権利金は返還されない費用であり、万が一事業が早期に撤退した場合でも回収できません。さらに、設備や内装が自店舗の業態に完全に合致するとは限らず、結局追加工事が必要になるケースもあります。
その場合、権利金を支払った意味が薄れてしまいます。また、金額の根拠があいまいなことも多く、市場価格より高額な設定がされている場合も。内容を十分に確認せず契約すると、割高な投資になってしまうおそれがあります。
居抜き物件の権利金の妥当性を判断する基準
居抜き物件の権利金が安いのか高いのかは、一見しただけでは判断が難しいものです。金額だけで判断すると、結果的に割高な契約になってしまうおそれもあります。
重要なのは、設備の状態や市場相場といった客観的な要素をもとに冷静に評価することです。ここでは、権利金の妥当性を見極めるために特に重視すべきポイントを解説します。
- 設備劣化の確認
- 市場相場との比較
設備劣化の確認
権利金の妥当性を見極めるうえで最重要となるのが、設備の劣化状況の確認です。厨房機器や空調設備、給排水設備などは、導入から何年経過しているかによって価値が大きく変わります。
表面的にきれいに見えても、内部部品の摩耗や配管の劣化が進んでいるケースも少なくありません。事前に製造年や使用年数、直近の修理履歴を確認し、今後どれくらいの期間使用できるのかを見極めることが大切です。可能であれば専門業者に点検を依頼し、将来的な修理費用や交換費用を試算したうえで権利金が適正か判断すると、無駄な出費を防ぎやすくなります。
市場相場との比較
もう一つ欠かせない視点が、市場相場との比較です。同じエリア、同規模、同業態向けの居抜き物件で、どの程度の権利金が設定されているかを調べることで、金額の妥当性が見えてきます。一件だけを見て判断せず、複数の物件を比較することが大切です。
仲介会社の担当者に相場感を確認するほか、不動産情報サイトや居抜き専門サイトも活用すると具体的な数字を把握しやすくなります。極端に高い場合は、その理由を必ず確認し、設備内容や立地条件が価格に見合っているかを冷静に検証するよう心がけましょう。
居抜き物件の権利金交渉の実務
居抜き物件の権利金は、提示された金額をそのまま受け入れる必要はありません。内容次第では交渉の余地があり、条件を調整することで初期費用を抑えられる可能性もあります。
ただし、感覚的な値下げ交渉では成功しにくく、根拠のある話し合いが重要です。ここでは、実務に活かせる交渉の考え方と具体策を解説します。
- 価格交渉の余地
- 交渉時の材料
価格交渉の余地
権利金はオーナーが自由に設定しているケースが多く、必ずしも固定価格ではありません。特に、長期間借り手が見つかっていない物件や、設備の老朽化が進んでいる物件では、交渉余地が広がる傾向があります。
売却を急いでいるオーナーの場合、早期契約を条件に値下げが受け入れられることもあります。また、内装や設備の一部が不要で撤去が必要な場合、その費用負担を理由に減額を交渉することも可能です。最初から大幅な値引きを求めるのではなく、現実的な落としどころを意識しながら段階的に交渉することが成功のコツです。
交渉時の材料
交渉を有利に進めるためには、客観的な材料をそろえることが重要です。例えば、同エリアの居抜き物件の取引事例や、設備の中古市場価格などのデータは有効な根拠になります。
また、設備の耐用年数や修理見積もりも、具体的な数字として提示できれば説得力が高まります。さらに、自身の開業スケジュールや資金計画をある程度開示し、信頼性の高い借り手であることを示すことも大切です。感情論に頼らず、事実と数字をもとに話し合うことで、双方にとって納得できる条件に近づきやすくなります。
居抜き物件を選ぶ際の権利金の考慮ポイント
居抜き物件の権利金は初期費用の一部ではなく、事業の採算性に直結する重要な判断材料です。金額だけで判断してしまうと、想定外の修繕費や設備更新費が重なり、開業後の資金繰りを圧迫する要因になります。
権利金の妥当性は、設備内容や回収見込みを含めて総合的に判断することが欠かせません。ここでは、失敗を防ぐために確認すべきポイントを整理します。
- 業態に合った設備かを見極める
- 設備の劣化度合いを必ず確認する
- 回収期間を資金計画に組み込む
業態に合った設備かを見極める
居抜き物件の設備は、前テナントの業態に特化した内容であることが多く、そのまま活用できるかどうかが権利金の価値を左右します。飲食店向けの厨房設備が充実していても、カフェや物販業態では不要になる設備も少なくありません。
使えない設備に対して権利金を支払う状態は、実質的な無駄な投資となります。現地確認の際は、厨房機器、給排水、空調、電気容量などが自社の業態と合致するかを細かくチェックし、追加工事が必要となる箇所を明確にすることが大切です。再工事が多ければ、権利金が安くても最終的な初期費用は想定を大きく超える可能性があります。
設備の劣化度合いを必ず確認する
見た目がきれいな設備であっても、内部の劣化が進んでいるケースは少なくありません。冷蔵庫や給排水設備、空調機器などは使用年数によって性能が大きく低下します。
耐用年数を過ぎている設備が多い場合、開業直後に修理や交換が必要となるリスクが高まります。設備の製造年やメンテナンス履歴を確認し、できれば専門業者に簡易点検を依頼することが望ましい対応です。
劣化が進んだ設備に高額な権利金を支払ってしまうと、追加投資が重なり、資金計画が大きく狂う原因になります。設備の実用性と残存価値を正しく見極めることが重要です。
回収期間を資金計画に組み込む
権利金を支払う際は、その金額をどれくらいの期間で回収できるのかを明確にする必要があります。権利金は単なる経費ではなく、投資のひとつと考える視点が欠かせません。
月間利益から逆算し、無理なく回収できる水準であるかを検討しなければ、事業開始後に資金不足に陥る可能性があります。想定より売上が伸びなかった場合でも運転資金に余裕をもてるか、最悪のケースを想定したシミュレーションが重要です。
回収期間が長すぎる場合は、権利金の減額交渉や物件の再検討も視野に入れるべき判断になります。資金計画と切り離して権利金を考えることは避けるべきです。
居抜き物件の権利金は費用ではなく経営判断の材料
居抜き物件の権利金は、単なる初期費用ではなく事業の失敗要因になり得る重要な判断要素です。設備や内装の引き継ぎによって開業コストを抑えられる一方で、内容を精査せずに支払ってしまうと、不要な設備への支出や修繕費の増加によって資金繰りを圧迫するリスクもあります。
権利金の妥当性は金額だけで判断せず、設備の状態、業態との適合性、回収期間、市場相場とのバランスまで含めて見極めることが大切です。さらに、原状回復条件や契約内容も確認したうえで交渉余地を探る姿勢が、失敗を防ぐ鍵になります。冷静な判断を行えば、居抜き物件は大きなコスト・時間を圧縮できる場合があるでしょう。
