飲食店を開業する際、自宅の空き部屋や駐車スペース、庭などを利用できないかと考えている方もいるでしょう。
結論から言えば、飲食店を自宅で開業することは可能です。ただし、営業許可証を取得する際に、満たしておかなければならない要件があるため、事前に確認しておかなければなりません。
本記事では、飲食店を自宅で開業する方法について、飲食店営業許可証の取得ポイントや開業可能な業態、開業資金の目安について詳しく解説します。
また、飲食店を自宅で開業するメリット・デメリットや、必要な許認可・資格についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
飲食店を自宅で開業することは可能?
飲食店を自宅で開業することは可能です。ただし、営業許可証を取得せずに営業し、サービスや飲食物を提供することはできません。
また、自宅がある地域によっては、営業許可証が取得できないエリアに指定されていることが理由で、開業できないケースもあるので注意しましょう。
そのほか、自宅での飲食店開業が可能な業態を選ぶことも大切です。
自宅開業に適していない業態で飲食店を開業したいが、店舗を出すのは難しい、と考えているのであれば、比較的少ない資金で開業できるキッチンカーを始めてみるのも良いでしょう。
参考記事:キッチンカー(移動販売)開業に必要な資格一覧!調理師免許の必要性や便利な資格まで徹底解説
飲食店を自宅で開業する際の飲食店営業許可証を取得するポイント
飲食店を自宅で開業する際、自宅がある地域を管轄している保健所で、「飲食店営業許可証」を取得する必要があります。飲食店の自宅開業を目的として営業許可証を取得する際は、以下のポイントをチェックしておきましょう。
- 自宅の用途地域を確認する
- キッチン・水回りなどの施設基準を満たす
- 近くに保全対象施設がないか確認する
それぞれ、具体的にどのような基準で判断すれば良いのか、なぜ確認する必要があるのかを詳しく解説します。
自宅の用途地域を確認する
都市計画法に基づき、建築物を建設する際には用途地域に基づく業種・業態に則って、土地を利用する必要があります。
飲食店を自宅で開業する際は、自宅の用途地域を確認した上で、飲食店の開業を禁止されているエリアではないか確認することが重要です。
基本的に、以下の用途地域に該当する場合は、自宅で飲食店を開業できません。
- 田園住居地域
- 工業専用地域
そのほか、一定の条件を満たしている場合に限り、開業可能な用途地域もあります。建物自体の高さに制限が設けられていた李、店舗は開業できないが店舗兼住宅であれば開業できたりするようなケースです。
- 第一種低層住居専用地域:建築物の高さが10~12m以下であること
- 第二種低層住居専用地域:店舗床面積が50㎡以下・建物の延べ面積の2分の1未満・2階以下であること
基本的に、上記以外の以下のような用途地域であれば、自宅での飲食店開業が可能です。
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
まずは、自宅がある地域が、どの用途地域に該当しているかをチェックしてみましょう。用途地域は、各自治体のホームページや窓口などで確認できます。
キッチン・水回りなどの施設基準を満たす
飲食店営業許可証を取得するには、食品衛生法で細かく定められた施設基準を満たす必要があります。これは、食中毒の発生を抑止し、衛生管理を徹底するために必要な基準です。
基本的に、自宅で飲食店を開業したい場合、まずキッチンを自宅用と店舗用で分けなければなりません。例えば、2階部分を住居用キッチン、1階部分を新たに店舗用キッチンとして内装工事を施すなどの方法です。
また、店舗と自宅の区画を分けるため、自宅の出入り口と店舗の出入り口をそれぞれ設ける必要があります。さらに、飲食店用のシンクは二槽シンクを導入し、調理道具・食材を洗うスペースを区別しましょう。
このように、飲食店を自宅で開業する際は、施設基準を満たすための内装工事が必要です。自宅のキッチンでそのまま調理して、飲食物を提供することはできない点に注意してください。
参考記事:【最新版】厨房機器一覧まとめ|飲食店・施設に必要な業務用厨房機器とメーカー比較ガイド
近くに保全対象施設がないか確認する
自宅で飲食店を開業したい場合は、近くに保全対象施設がないか確認することも重要です。保全対象施設とは、学校や病院・図書館・児童福祉施設などを指します。
このような保全対象施設が近隣にある場合、自宅で飲食店を開業できない場合があるので注意しましょう。
保全対象施設の種類によって、距離制限が異なります。保全対象施設から自宅までの距離が100m以上離れている場合は、飲食店を開業しても問題ありません。
自宅で開業できる飲食店の業態
自宅で開業できる飲食店の業態として、以下の例が挙げられます。
- 店舗付き住宅・店舗兼住宅
- カフェ
- ゴーストレストラン・テイクアウト専門店
それぞれ、どのような営業方法ができるのか、どのようなメニューであれば提供できるのか確認していきましょう。
店舗付き住宅・店舗兼住宅
店舗付き住宅・店舗兼住宅は、その名の通り店舗と住宅が1つの建物に集約された状態で経営するタイプの業態です。
店舗物件を借りる必要がないため、家賃の負担を抑えられるメリットがあります。ランチタイムのみ・ディナータイムのみの営業にも対応できますが、近隣住民の理解を得ることが重要です。
基本的に、酒類の提供や夜間営業は推奨できません。住居が周辺にある場合は、とくに周辺の住民に対する配慮を欠くことがないように、店舗のコンセプトや提供するメニューを検討する必要があります。
カフェ
自宅で飲食店を開業するなら、カフェもおすすめです。カフェは、設備投資にかかる資金を抑えられる点が特徴で、近隣住民の社交場のような形で重宝されやすく、リピーターの獲得が見込めます。
カフェメニューのバリエーションも豊富にあり、コーヒーだけでなく紅茶やデカフェを取り扱ったり、スイーツを提供したりすることも可能です。
また、サンドイッチや軽食、日替わりランチのみを提供するなど、メニューの種類を絞ってランチ営業を行うことも可能なため、さまざまなスタイルで開業できます。
近年では、古民家カフェのように、あえてレトロな雰囲気を楽しめるように設計されたカフェも人気です。店舗にはない、自宅カフェならではのアットホームな空間を提供すると良いでしょう。
ゴーストレストラン・テイクアウト専門店
ゴーストレストラン・テイクアウト専門店も、自宅で飲食店を開業する際におすすめの業態です。ゴーストレストランとは、イートインスペースがなく、テイクアウトやデリバリーに特化した飲食店のことを指します。
自宅の限られたスペースを改装しても、客席を確保することが難しい場合に最適です。カフェメニューのほか、たこ焼きやお好み焼き、パン、お弁当などの販売にも対応できます。
飲食店を自宅で開業する場合の開業資金の目安
飲食店を自宅で開業する場合の開業資金の目安は、300万円~1,000万円です。改装するスペースの広さや、導入する厨房機器の大きさ・数など、状況によって必要な費用は大きく変動します。
そのため、目安の金額より安く抑えられる場合もあれば、超える可能性もあると考えておきましょう。
一般的な店舗型の飲食店を開業する場合、開業資金は1,000万円~1,500万円必要になります。自宅で飲食店を開業する場合、店舗型の飲食店よりも、開業資金が抑えられるのも特徴です。
参考記事:飲食店開業に必要な資格一覧|調理師免許の有無や届出の申請についても解説
飲食店を自宅で開業するのに必要な資格・許認可
飲食店を自宅で開業する際は、以下の資格・許認可の取得が必要です。
- 食品衛生責任者
- 防火管理者・防災管理者
- 飲食店営業許可申請
食品衛生責任者は、飲食店を営業する際に必ず有資格者を1人配置しなければなりません。防火・防災管理者の資格も同様です。それぞれ、開業する際、管轄の保健所・消防署に選任者を届け出る必要があります。
また、飲食店営業許可証の取得も必要です。このとき、パンや菓子類のテイクアウトを行う場合は、菓子製造業許可証も取得する必要があることを忘れないようにしましょう。
飲食店で必要な資格として調理師免許が挙げられますが、調理師免許がなくても飲食店を開業したり、調理に携わることは可能です。
一方で、調理師免許を取得していると、食品衛生責任者資格の講座受講が免除されるメリットもあります。
そのほか、飲食店開業時に必要な資格や許認可・届出については、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひ参照ください。
参考記事:飲食店開業に必要な届出一覧!開業届を出すタイミングと必須資格も紹介
飲食店を自宅で開業するメリット・デメリット
飲食店を自宅で開業する場合、店舗型の飲食店を開業するのと比べて、メリット・デメリットがそれぞれある点に注意が必要です。
メリット
飲食店を自宅で開業する場合、以下のメリットがあります。
- 初期費用・開業資金が抑えられる
- 副業として始められる
- 働く時間をコントロールしやすい
- 通勤時間を削減できる
- リピーターを獲得しやすい
自宅を飲食店として開業するのは、店舗型飲食店と比べて開業資金を抑えられる点が大きなメリットです。万が一失敗しても、店舗型の飲食店と比べて資金面の損失を最小限に抑えられます。
また、営業時間を自由に決められるので、働く時間をコントロールしやすく、飲食店経営を学ぶ目的で副業として始めるのにも最適です。通勤時間も削減できるため、営業に時間や労力を集中できます。
近隣住民や顔見知りを集客しやすいことから、リピーターを獲得しやすいのもメリットです。
デメリット
飲食店を自宅で開業する際、以下のようなデメリットがあります。
- 近隣トラブルにつながる可能性がある
- 住宅街では新規顧客の集客が難しい
- 自宅スペースへの防犯対策を強化する必要がある
自宅で飲食店を開業した場合、近隣トラブルにつながる可能性があります。騒音やゴミ問題などが発生しないよう、十分に配慮しましょう。
また、住宅街では店舗前の通行人の数も少ないため、集客方法についても検討しておくことが重要です。そのほか、店舗へ出入りする人の数が増えることを見越して、自宅スペースへの防犯対策も強化しておきましょう。
まとめ
飲食店を自宅で開業するのは、店舗で開業するのと比べて費用を抑えられるメリットがあります。一方で、集客の難しさや周辺住民への配慮など、注意しておかなければならない項目を念頭に、準備を進めることが重要です。
また、費用面の課題で店舗開業を断念しているのであれば、キッチンカーを出すのも選択肢の1つです。状況に合う開業方法を選び、自分だけの店舗開業を目指しましょう。