近年、企業の人材育成において「効率化」と「教育効果の向上」を両立できる手段として、eラーニングシステムが急速に普及しています。
従来の企業研修でよく行われていた集合研修は、会場手配や講師依頼、受講者のスケジュール調整など負担が大きく、コスト面でも悩みの種でした。eラーニングシステムなら、スマートフォンやタブレットから手軽にアクセスでき、受講者は自分のペースで学習を進められるため、進捗管理や復習もスムーズです。さらに、企業側は学習履歴や理解度を一元管理できるため、教育内容の標準化や研修コストの大幅な削減も期待できます。
本記事では、学習者・企業双方が得られるeラーニングシステムのメリットを整理し、導入前に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。これからeラーニングシステム導入を検討する担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
eラーニングシステムとは?基本の仕組み
eラーニングシステム(LMS)とは、教材の配信から進捗管理、理解度テストまで一元的に扱う「学習管理システム」であり、企業の教育効率化とスキル定着に直結するツールです。
eラーニングシステムでは、パソコンやスマートフォンを経由して、オンライン研修の実施や学習コンテンツの配信を行います。受講者が場所や時間に制約されずに、オンラインで自己学習できる仕組みです。その中心にあるLMS(※)は、教材(動画教材、テスト、PDF教材など)をクラウド上で一括管理し、進捗状況・学習履歴・理解度を管理者がリアルタイムで確認できます。
※LMS(Learning Management System:学習管理システム)とは、教材配信・学習進捗の記録・受講者管理など、学習を効率的に運営・管理するための仕組み全体を提供する“土台”のことです。つまり、「学習環境を支える中心的なシステム」と言えます。
また、eラーニングシステムに関する標準規格であるSCORM(スコーム:Sharable Content Object Reference Model)に対応することで、職種別・スキル別といったカテゴリ別に教材を柔軟に組み替えられるのも利点です。
このように、eラーニングシステムはオンライン上での学習管理や進捗・理解度の可視化により、従業員教育の標準化と運用の効率化を実現します。集合研修では難しい、従業員一人ひとりの理解度を把握したり、指導内容の均一化を図ることも可能です。
そのため、研修・学習の成果を見えやすくするための手段として、eラーニングシステムは、経営者・管理職から高く評価されています。
なぜ今、多くの企業がeラーニングシステムを導入しているのか?その背景
企業でeラーニングシステムの導入が進む背景には、教育のオンライン化による効率化とコスト削減、そしてスキル育成に対するニーズに応える目的があります。
産業能率大学総合研究所のアンケート調査によると、eラーニングシステムの導入率は2019年から17.8ポイント上昇し、2025年時点では75.4%に達しています。
(日本企業の人事・教育部門の担当者を対象に179社へ行った調査結果)
この導入率の上昇は、オンライン研修や学習管理(LMS)を導入する企業が、リモートワークやDX推進、リスキリング(スキル再習得)機会の増加に対応している結果といえるでしょう。
また、eラーニングで教育コストを削減できることから、集合研修にかかる交通費・会場費・講師料などの負担を見直したい企業にも適しています。
人材育成面では、スキル別・階層別に設計された学習コンテンツを通じて、従業員の能力開発を個別に最適化できる点が評価されているのも特徴です。
このように、学習環境の柔軟性やコスト効率の高さ、人材育成の高度化といった背景から、多くの企業でeラーニングシステムの導入が今後も加速していくと予想されます。
出典:通信教育およびeラーニングの活用実態調査
eラーニングシステムと他の教育手法の違いを比較【集合研修/OJT/紙教材】
eラーニングシステムは、コストの効率性や継続学習のしやすさという点で、集合研修・OJT・紙教材とは明確に異なっており、とくに標準化・再利用性において優れています。
項目 | eラーニングシステム | 集合研修 | OJT(現場指導) | 紙教材 |
---|---|---|---|---|
効果 | 理解度テストや進捗管理で学習効果が可視化されやすく、繰り返し学習が可能 | 講師との双方向コミュニケーションで理解を深めやすい | 実務を通じて実践スキルを学びやすい | 自習形式のため理解度にばらつきが出やすい |
コスト | 初期費用は必要だが、教材の再利用で長期的にコスト削減できる | 会場費、講師料、交通費などが高額になりやすい | 指導者の人件費や時間コストが発生 | 紙代・印刷代など低コストで始められる |
手間 | 一度教材を作成すれば繰り返し利用でき、管理も自動化可能 | スケジュール調整や資料準備の負担が大きい | 指導者ごとに指導内容が異なり、標準化が難しい | 進捗管理が手作業になりやすく、共有が煩雑 |
継続性 | スマホ対応やスキマ学習で学習を継続しやすい | 研修のタイミングが限られるため、継続学習が難しい | 指導者の都合に左右され、計画的学習がしにくい | 繰り返し学習は可能だが、更新・管理が手間 |
このように、集団研修・OJT・紙教材にはそれぞれ強みがあるものの、教育の標準化・可視化・コスト効率という点でeラーニングシステムは優れています。とくに学習の継続性や進捗管理を重視する企業には、eラーニングシステムが適しているでしょう。
【eラーニングシステム】学習者側のメリット4つ
eラーニングシステムには、場所・時間を選ばず自分のペースで学べるなど、学習者にとって以下4つの利点があります。
- スマートフォンやタブレットでも受講可能な利便性
- 自分のペースで学習を進められる
- 忙しい業務の合間に短時間ずつ学習できる
- 教材の再受講・復習が容易
それぞれ解説します。
スマートフォンやタブレットでも受講可能な利便性
eラーニングシステムの導入によって、スマートフォンやタブレットによる受講が可能となり、忙しい学習者でも業務・プライベートの合間に学習を進められるため、学習の利便性が高まります。
多くの企業向けeラーニングシステムではマルチデバイス対応をうたっており、自社の端末をそのまま教材として活用できるのがメリットです。
スマートフォンやタブレットでeラーニングシステムを利用する場合は、通知機能や音声入力・資料スキャンなどの機能を学習に取り入れられるため、操作性も向上します。
スマホ・タブレットに対応しているeラーニングシステムを導入すれば、場所や時間を選ばずにすぐ学びを開始できるのが特徴です。学習のハードルが下がることで継続しやすくなり、学習内容の理解や定着、そして自主的な学習習慣の構築にもつながるでしょう。
自分のペースで学習を進められる
eラーニングシステムは学習者が自らのペースで学べる仕組みであり、学習者それぞれの理解速度やモチベーションに合わせて進められる点がメリットです。
学習者が自分の学習速度を選べることで、時間管理能力や自律性が向上し、ストレスが軽減される効果も期待できます。
自分のペースで学べる環境があることで、研修へのハードルが下がり、習得意欲も自然に維持しやすくなるでしょう。
忙しい業務の合間に短時間ずつ学習できる
eラーニングシステムの中でも、5~10分の短時間学習が可能なマイクロラーニング形式は、スキマ時間を活用しやすく、忙しい現場スタッフにも合った学習スタイルです。
現場業務が忙しくまとまった時間が確保できない職場では、長時間の研修は負担になりがちです。
しかし、eラーニングシステムであれば昼休みや仕事の合間、終業後の数分を使って少しずつ学習を進められるため、業務の圧迫を避けながら知識を積み上げられます。
とくに飲食店や小売店のように業務が断続的な職場では、この「分割学習」のしやすさが受講率アップに直結するでしょう。
教材の再受講・復習が容易
eラーニングシステムでは、一度視聴した教材を自由に再受講できるため、理解が曖昧な部分を繰り返し確認でき、知識が着実に定着します。
一度受けた研修内容をすぐに忘れてしまう、ということは誰にでも起きうるでしょう。eラーニングシステムなら、わからなかった箇所や曖昧な部分だけを何度でも見直せるため、十分に理解できるまで繰り返し学べます。
とくに業務でトラブルが起きたとき、「あのときの教材で見た内容だ」と思い出してすぐに再確認できる点が、現場実務と直結した学習スタイルを確立する手段として支持されています。
eラーニングシステムの再受講・復習機能により、受講者は弱点や理解不足に適切に対処でき、学習効果がより強固なものになるのもメリットです。
【eラーニングシステム】企業側のメリット3つ
eラーニングシステムの企業側のメリットには、教育の見える化やコスト削減といった以下3つのメリットがあります。
- 学習進捗や履歴の一元管理で、教育効果を把握できる
- 集合研修・講師手配・会場にかかるコストをカットできる
- 人材育成の標準化と業務効率化につながる
それぞれ解説します。
学習進捗や履歴の一元管理で、教育効果を把握できる
企業はeラーニングシステムを利用することで、受講者の学習進捗や受講履歴を一元管理し、教育効果を高い精度で分析できるメリットがあります。
Eラーニングシステムは受講者の進捗状況や理解度テスト、学習履歴をリアルタイムで集計し、管理者が学習データを可視化できる仕組みです。この機能により、管理職や教育担当者はどの社員がどの教材コンテンツに遅れをとっているか把握し、適切なフォローや教材更新につなげられます。
学習履歴の一元管理は「誰が、いつ、どこまで学んだか」を明確にし、教育施策のPDCAを回す基礎になるでしょう。
集合研修・講師手配・会場にかかるコストをカットできる
研修・学習手段のeラーニング化によって集合研修や講師、会場などにかかる教育コストを削減できます。
従来の研修では、会場レンタル費、講師料、交通費、宿泊費などが積み重なり、コストが膨大になりやすいデメリットがありました。
eラーニングシステムを導入すれば、運用コストを低く抑えられます。導入時や初回の教材制作にはコストがかかる反面、一度システムを導入すれば繰り返し利用できるためです。
実際に、これまで1,300人を対象に対面研修を行っていた日本交通株式会社は、eラーニングシステムの導入効果について「研修場所の確保や案内、日程調整などの手間も減ってラクになり、運用が効率化した」としています。
このように、eラーニングシステムは、活用することで研修の実施コストが削減され、教育の経済効率性が向上するのがメリットです。
参考サイト: 1300人の対面研修、manebi eラーニングの導入により手間の大幅削減と効率化の実績を明かす
人材育成の標準化と業務効率化につながる
eラーニングシステムは、人材育成の内容を標準化し、教育業務の効率化を同時に実現できます。
eラーニングシステムを使えば、教材コンテンツ(動画教材、テスト、PDFなど)をサーバで一元管理しながら、社内の全拠点・全階層に均質な教育を提供できる点もメリットです。
さらに、リスキリングや階層別研修など個別学習の最適化もデータに基づいて実行でき、教育設計と運営負担が格段に軽減されます。
その結果、eラーニングシステム導入企業では「教育品質の平準化」と「管理業務の自動化」が両立し、企業全体の人材育成力が高まるでしょう。
【eラーニングシステム】学習者側のデメリット
eラーニングシステムには、学習者側のデメリットも存在します。
- 不明点をその場で質問できない
- 実技が必要な学習に向いていない
それぞれ解説します。
不明点をその場で質問できない
eラーニングシステムでは学習者がその場で質問できない構造になっているため、「わからない」がそのまま学習のつまずきにつながるデメリットがあります。
対面研修と異なり、eラーニングシステムは動画教材や資料を一方的に学ぶ形式が中心です。そのため、疑問点を即時解消できずに知識が曖昧なまま進んでしまいかねません。さらに、受講者同士のディスカッションや講師との質疑応答が難しい点も、理解不足や孤立感につながる要因になります。
この課題に対しては、チャットサポートやオンライン上で複数の参加者が議論・討論できるフォーラム機能の導入、定期的なオンラインQ&Aセッションなど、双方向コミュニケーションの仕組みを構築して解消しましょう。
実技が必要な学習に向いていない
学習教材であるeラーニングは座学や動画教材には適していますが、実際に手を動かす実技スキルの習得にはやや不向きです。
医療・介護・製造業界などでは、機器操作や接客などの技能習得には集合研修やOJTによる実践が不可欠であり、eラーニングシステムだけでは習熟が不十分になりかねません。
ただし、近年はVRやオンライン実技演習を取り入れた「疑似体験型eラーニング」が注目されており、技術革新によって実技教育との相性も改善しつつあります。VRを使ったeラーニングシステムには以下のような製品があります。
参考サイト: mcframe MOTION VR-learning
実技学習が必要な場合、座学はeラーニングシステムで効率化し、実技はVRや集合研修、OJTで学ぶハイブリッド運用を採用する方法もおすすめです。
【eラーニングシステム】企業側のデメリット
eラーニングシステムには、企業側のデメリットも存在します。
- 初期設定・コンテンツ作成に時間とコストがかかる場合がある
- 受講状況をフォローしないと学習が定着しにくい
それぞれ解説します。
初期設定・コンテンツ作成に時間とコストがかかる場合がある
eラーニングシステム導入時は、初期設定や教材制作に想定以上の時間とコストが必要になる場合があり、計画が甘いと投資対効果が低下しかねません。
クラウド型のeラーニングシステムでも、初期費用は5万円〜20万円程度かかり、オンプレミス型では100万円〜数百万円と費用が大きく変動します。また教材を内製する場合、制作スキルや時間が必要です。外注する場合も、品質を求めると費用が高額になるケースが少なくありません。
したがって、導入前に自社の教材リソースやベンダー提供のパッケージの有無などを精査し、事前にスケジュールや外注費用を見積もることが重要です。
受講状況をフォローしないと学習が定着しにくい
受講者の進捗を管理しフォローを行わないと、学習定着率が低下し、eラーニング教材本来の効果が発揮されにくくなります。
eラーニングシステムは学習者が自律的に進める形式のため、「受けたら終わり」になりやすく、対面研修のような強制力がありません。進捗やテスト結果を管理職が把握できる機能があっても、フォロー体制が不十分だと学習意欲が低下し、教材の効果が十分に得られなくなります。
そのため、教育担当者や管理職による定期的なフォローアップや進捗確認ルールを設けることで、受講者に学習効果を実感してもらえるでしょう。
導入するeラーニングシステムの選び方と導入前に押さえるべき4つの比較ポイント
eラーニングシステムの導入前に、管理者側は以下の4つのポイントを確認しましょう。
- eラーニングシステムの導入目的と受講者をはっきりさせる
- スマホやタブレットで使えるeラーニングシステムか確認する
- 社内運用体制とサポート体制を整える
- 助成金・補助金が使えるか確認する
導入前には誰に何を学ばせたいのかを明確にし、eラーニングシステム導入の狙いを定めたうえで、必要な学習コンテンツを設計することが重要です。Eラーニングシステムを活用して学習の継続性を高めるには、操作性が高く、スマホやタブレットでも使えるシステムを選ぶと良いでしょう。
また、教育担当者・現場管理者などのシステム運用における役割も明確化しておきます。システム提供会社のサポート体制も事前に確認しておくと安心です。加えて、IT導入補助金・人材開発支援助成金など、導入時に活用できる助成金・補助金もチェックしておきましょう。
参考記事: eラーニングシステムの導入目的とは?導入前に検討しておくべきポイントも解説
eラーニングシステム導入は「教育投資の効率化」に直結します
eラーニングシステムは、「自分のペースで学べる柔軟性」と「教育の効率化とコスト削減」という、学習者・企業双方に対してメリットをもたらします。導入前には、eラーニングシステムを導入する目的を明確化し、コンテンツ設計や進捗管理体制の整備を行いましょう。
eラーニングシステムを正しく設計・運用すれば、従業員の学びが効率化して人材育成の質とスピードが飛躍的に向上するため、企業成長の原動力として効果的に機能します。業務に合ったeラーニングシステムを選び、継続可能な学習環境を整えましょう。