富士山や伊豆、温泉、日本茶といった多彩な観光資源を有する静岡県は、インバウンド需要の回復を背景に、外国人観光客の受け入れ体制強化に力を入れています。アジア圏を中心とした訪日客の誘致に加え、欧米市場への認知度向上、地方部への誘導、多言語対応の整備など、地域の魅力を最大限に活かす施策が進行中です。本記事では、静岡県のインバウンド対策の現状と課題について詳しく解説します。
静岡県の主なインバウンド施策とは?
本項では、静岡県の主なインバウンド対策について解説します。
静岡空港を活用した海外直行便と誘客強化
富士山静岡空港では、2024年度の搭乗者数が約63万2,000人となり、前年度から2割以上増加しました。
特に、国際線の利用者数が大幅に増加し、インバウンド需要の回復が顕著です。 静岡県は、韓国や台湾などの航空会社と連携し、共同プロモーションを実施するなど、海外からの誘客強化に取り組んでいます。
多言語対応と観光案内のデジタル化
静岡県では、観光案内の多言語対応とデジタル化を推進しています。 三島市では多言語観光情報サイト「Guidoor」を導入し、市内約80箇所の案内看板にQRコードを設置することで、スマートフォンを通じて多言語での観光情報提供を実現しています。
また、生成AIを活用して観光案内所の問い合わせデータを要約し、多言語での情報発信を効率化する取り組みも進められています。
免税制度・キャッシュレス環境の整備
静岡県は、訪日外国人観光客の利便性向上を目的に、免税制度の導入とキャッシュレス決済環境の整備を進めています。
観光庁の「インバウンド対応支援補助金」などを活用し、店舗の多言語対応やキャッシュレス決済端末の導入を支援しています。 これにより、外国人観光客が快適に買い物やサービスを利用できる環境づくりが進められています。
静岡県の観光コンテンツとは?
本項では、静岡県が持つ観光コンテンツについて解説します。
茶摘み体験・日本茶文化ツアーの展開
静岡県では、世界的なお茶の祭典「世界お茶まつり2025」が開催され、茶摘み体験や茶取引の模擬体験、茶畑見学など、日本茶文化を深く体験できるツアーが展開されています。
特に、玉露の産地である朝比奈エリアでの被覆栽培の茶畑見学や、新茶の天ぷら試食など、五感で楽しむプログラムが好評です。これらの取り組みにより、訪日外国人観光客にとって魅力的な体験型観光が提供されています。
富士登山や伊豆のアクティビティの多言語化
富士山登山では、静岡県が提供する「富士登山事前登録システム」が17言語に対応し、外国人登山者の利便性が向上しています。
また、登山マップやルール説明も多言語で提供され、安全で快適な登山体験が可能となっています。 伊豆地域でも、観光案内所やアクティビティ施設での多言語対応が進められ、外国人観光客が安心して楽しめる環境が整備されています。
和食・地元グルメの体験価値向上
静岡市では、地元食材を活用したガストロノミーツーリズムの推進に向け、飲食店の表彰や収穫体験などの取り組みが行われています。
また、2025年5月には「eat FUJI」イベントが開催され、静岡の食材を使った特別なお弁当や抹茶体験など、食を通じた地域の魅力発信が強化されています。 これらの施策により、訪日外国人観光客に対する食の体験価値が向上しています。
静岡県独自のインバウンド施策とは?
続いて本項では、静岡県独自のインバウンド施策について解説します。
富士山静岡空港を活用した海外との直行アクセス強化
富士山静岡空港では、アジア主要都市との直行便が運航され、インバウンド誘客の拠点として機能しています。 2025年現在、韓国・ソウル、台湾・台北、中国・上海などへの定期便が就航し、訪日外国人観光客の利便性向上に寄与しています。 静岡県は、航空会社との連携やプロモーション活動を通じて、さらなる国際路線の拡充と利用促進を図っていくでしょう。
日本茶体験を軸にした“茶文化ツーリズム”の推進
静岡県は、日本茶の魅力を発信する「世界お茶まつり2025」を開催し、茶文化ツーリズムを推進しています。 このイベントでは、茶摘み体験や手揉み体験、茶歌舞伎など、多彩なプログラムが展開され、国内外の観光客に日本茶の奥深さを伝えています。
また、茶畑見学や茶園での体験プログラムも充実しており、訪日外国人観光客にとって魅力的な観光コンテンツとなっています。
「富士山・伊豆・三保松原」エリアでの多言語観光ガイド整備
静岡県では、富士山・伊豆・三保松原エリアを中心に、多言語対応の観光ガイド整備を進めています。 観光庁の支援事業を活用し、英語をはじめとする多言語での解説文や案内表示の整備が行われ、訪日外国人観光客が安心して観光を楽しめる環境が整備されています。 また、観光施設や案内所での多言語対応の強化も図られています。
静岡県が抱えるインバウンド対策における課題とは?
本項では、静岡県が抱えるインバウンド対策の課題について解説していきます。
訪問エリアの偏りと地方部への誘客不足
静岡県では、富士山や伊豆半島などの有名観光地に訪日外国人観光客が集中し、その他の地域への誘客が課題となっています。 特に、富士山周辺では写真撮影後に他地域へ移動する傾向が強く、地域全体での観光消費の拡大が難しい状況です。
そのため、地方部の観光資源を活用した周遊ルートの開発や、地域独自の体験型コンテンツの充実が求められています。
欧米市場への認知度不足とプロモーションの限定性
静岡県のインバウンド施策は、これまでアジア市場を中心に展開されてきましたが、欧米市場への認知度は依然として低い状況です。
欧米豪市場へのプロモーションは限定的であり、効果的な情報発信が課題となっています。 今後は、欧米市場向けの戦略的なプロモーション活動や、地域の魅力を伝えるコンテンツの多言語化が必要とされています。
宿泊施設・観光業の人手不足と多言語対応の遅れ
静岡県内の宿泊施設や観光業界では、深刻な人手不足が続いており、特に外国語対応が可能なスタッフの確保が難しい状況です。
このため、訪日外国人観光客へのサービス提供に支障をきたし、機会損失が生じています。 また、多言語対応の遅れも課題であり、観光案内や施設情報の多言語化が求められています。
静岡県では、富士山静岡空港の活用や茶文化体験の提供、多言語対応の強化など、地域資源を活かした独自のインバウンド戦略が進められています。一方で、訪問地の偏在や人材不足といった課題も残されています。今後は、県全体での受け入れ体制の底上げと、持続可能な観光の実現が求められるでしょう。静岡県が世界中の旅行者に選ばれる観光地となるための取り組みに注目が集まります。