飲食業界において通貨処理機のパイオニアとしてブランドを築き上げてきた「グローリー株式会社」ですが、2022年にDXビジネス推進統括部を立ち上げ、店舗DX推進へと舵を切りました。同社は今後どのように飲食業界を支援していくのか、ビジョンやこれまでの店舗DX支援実績、飲食店を支援する上での想いをDXビジネス推進部 部長の三木剛様に伺いました。
―まずは、通貨処理機メーカーとしてブランドを確立していた貴社が、なぜDX推進を行うようになったのか。その背景を教えてください。
グローリーは、おっしゃる通り元々通貨処理機で利益を上げてきたハードウェアの会社です。飲食店においては券売機の年間出荷台数のシェアが40%以上とNo.1のシェアを獲得しておりました。
しかし昨今のキャッシュレス化の流れを受け、現金を使用した支払いが減っていくことは明確でした。飲食店様にはこれまでとは大きく異なるニーズが生まれていることも感じております。
また、これまではお客様が飲食店の運用(券売機、テーブルでのオーダー、カウンターでのオーダー等)に合わせていましたが、現在はお客様の多様なニーズ(モバイルオーダー、デリバリー等)に飲食店側が合わせていく必要があります。
そこで、これからはハード(券売機)だけでなく様々なサービスを融合したソリューションを提供していくことで飲食店様の課題を包括的に解決していくべきではないかと考え、DX推進に舵を切ったという背景がございます。
―ありがとうございます。では貴社ではどのようにDX推進をご支援されているのでしょうか。
2023年にTOFREE(トフリー)をリリースし飲食店様の店舗DXを支援しています。 TOFREE(トフリー)という名前は「GLORY to Free」からきており、文字通りグローリーから、飲食店に来店されるお客様に自由な体験を提供する、またそういった環境を飲食店様に提供するというBtoBtoCの想いが込められています。
ここでいう自由な体験とは、注文の自由さや受取りの自由さなど、手段にとらわれない自由な体験をお客様に提供することを指します。
そして、飲食体験にこれまで以上の価値を提供する事です。
- セルフでKIOSK(券売機)を使用したい方
- テーブルから座ってオーダーしたい方
- ドライブスルーで商品を受け取りたい方
- テイクアウトを自宅からオーダーしたい方
- 逆に機械が苦手で対面レジを利用したい方
- テイクアウト商品をロッカーで受けとりたい方
など現代はまさにお客様によって飲食店の利用方法が多種多様です。
こういったひとつひとつのニーズに応えることが、お客様 へ自由な体験を提供できる手段であると弊社では考えております。
そのため、TOFREE(トフリー)はサービスの名称ではなく、弊社のDX推進ソリューションをご提供していくうえでの概念(世界観)のようなものと考えていただけるとわかりやすいと思います。
TOFREEサービスページ:https://www.glory.co.jp/food/
―たしかに、さまざまな支払い方法、受け取り方法に対応している飲食店であれば、性別・年齢・国籍に関係なく幅広い層のお客様の獲得が見込めそうですね。
仰る通りです。DX推進というと業務効率化が目的というような見方もされがちです。もちろん、ハード・サービスの導入により業務効率化は実現できますが、弊社の考えるDX推進の本質は業務効率化×顧客体験向上、つまり入客数を向上する事により売上・収益を最大化させる事です。
入客数を上げるには、様々な注文方法に対応した店舗オペレーションの環境を構築し、お客様の注文ニーズにお応えする、 そして分散させる必要があります。さらにそこに客単価向上も実現できれば、さらなる売上向上が見込めます。
業務の効率化を実現しつつ、お客様の体験を向上させ、入客数を増やしていく。この好循環を生み出していくのが我々のミッションのひとつです。
―まさにDXの本質ですね!一方で貴社はもともとハードウェアを得意としていた中で、DX推進にはソフト面での支援も必要になるかと思います。どのようにDX推進支援の基盤を整えられたのでしょうか。
仰る通り弊社はこれまでハードウェアを得意としてきましたが、DX推進を支援するにあたりソフト面の強化にも踏み切りました。具体的にはO:der(オーダー)プラットフォームを中心とした事業を展開している資本業務提携先の株式会社Showcase Gig様やグループ会社であるフランスのAcrelec Group S.A.S社(以下、Acrelec)との協業です。AcrelecはKIOSKの世界トップメーカーです。
これまでの弊社の製品は、ハードの中に脳みそがある、いわゆるオンプレミスでの運用でした。しかし、Showcase Gig様との協業により、弊社だけでは難しかったクラウド型のアプリケーション開発が可能となりました。
その結果、この後ご紹介するKIOSKやモバイルオーダーなど、TOFREEの製品群をクラウドで連携させる(SaaSでの提供)ことが可能となり、データを一元管理できるようになったことが大きな変化であり、DX推進の鍵のひとつだと思っています。
―なるほど…。TOFREEのリリースが貴社にとっても飲食店様にとっても大きな転換期となっていることがとてもよくわかりました。そこで、TOFREE(トフリー)という概念を基に具体的にはどのような製品を展開されているのかも、ぜひお伺いさせてください。
具体的には
- セルフオーダーKIOSKの「FGKシリーズ」
- テーブルオーダーの「O:der Table」
- モバイルオーダーの「O:der ToGo」
- ドライブスルーの「Drive through System」
- 席管理の「テーブルロケーター」
- 店内サイネージの「デジタルメニューボード」
- コンテンツ管理システムの「ACS」
- 分析、集客マーケティング支援ツールの「BUYZO」
を提供しています。
TOFREEは多種多様なニーズを満たすための製品をオールインワンで備えているのが特徴です。
ただ、飲食店様によって課題は異なりますので、事前に飲食店様の課題、目指すビジョンをお伺いした上で、どのような製品・サービスがマッチするのかをご提案させていただいております。
また、飲食店様目線はもちろんですが、飲食店様を利用するお客様目線でのニーズを踏まえたご提案をさせて頂いているのも弊社の特徴と言えます。
弊社は長年券売機を販売してきており、シェアNo.1を獲得したという背景もございますので、蓄積してきた飲食店運営に関する知識やノウハウも併せてご提供・ご提案させていただくことが可能です。飲食店様ごとに最適な提案を実施する為に、メニュー構成・店舗オペレーション等の調査、事前準備等はとても重要であり、時間をかけて取り組んでいます。
但し、100%自動化することは難しいと考えています。飲食店を利用されるお客様と従業員様の接点は無くしてはならないとも考えています。人にしか出来ない顧客サービスと弊社のサービスをいかに融合していくか?という事がポイントです、いわゆる本当の効率化をお客様ごとに提案することが重要であると考えています。
これこそが弊社の大きな強みであります 。
―券売機でシェアNo1を獲得しており、飲食店経営に関するノウハウを有した貴社からのご提案となると、ご提案だけでも有益な情報が詰まっていそうですね。
―TOFREEは無人注文決済端末からモバイルオーダーまで幅広く、オールインワンでの支援が可能とのことですが、中でも飲食店様からご要望が多い製品はあるのでしょうか?
ドライブスルーやモバイルオーダーのニーズも増えておりますが、TOFREEの中でもニーズが多く軸となっているのはセルフオーダーKIOSKの「FGKシリーズ」です。売上としても7~8割を占めております。
先ほど、弊社がDX推進を支援する目的は「業務効率化×顧客体験向上×収益向上の実現」とお伝えしておりました。FGKシリーズはまさに弊社のDX推進を体現する製品のひとつだと考えております。
―ぜひ、セルフオーダーKIOSKの「FGKシリーズ」について詳しく教えてください。
FGKシリーズは2024年3月にリリースをしたのですが、3年をかけて飲食店様向けに企画・デザインし、ようやくリリ-スできました。特に、筐体デザイン・アプリケーションのUI/UXには大きな拘りをもって開発をしております。
中でも、なぜUIに拘っているのかといいますと、UIは客単価の向上、ひいては売上向上に直接的に影響があると考えているためです。
弊社のFGKシリーズはスマホと同じようなUIを採用しております。今や多くの方がスマホを保有しているので、スマホと似た画面であればお客様が迷うことなく オーダーができますよね。ただの画面ではなく、お客様とのコミュニーケーションとして直感的にストレスなくオーダーできる事、ここはとても大切にしています。
対面のレジや操作が難しいセルフオーダーと比べてプレッシャーを感じることなく、かつ簡単でじっくりとメニューを選ぶことができるため、「いつものメニューにサイドメニューも頼もうかな」といった心の余裕を生み出しやすいと考えています。そうなると結果的に客単価向上が期待でき、売上向上が期待できるという考えです。
―誰でも使いこなせるUIとなると、インバウンド需要への対応もできそうですね。
そうですね。FGKシリーズは多言語対応も可能ですので、海外のお客様にも簡単に使用していただけます。
特に海外ではセルフオーダーのニーズが60%を超えているようで、多言語対応可能かつ、誰もが使い慣れているスマホのUIという組み合わせによってインバウンドのお客様のニーズもしっかりと掴めるのではないかと考えております。
結果、従業員様、インバウンドのお客様、双方にとってストレスない世界が作れると思っています。
また、世界トップのKIOSK導入実績を誇るAcrelecと共同開発したFGKシリーズは、世界基準のKIOSK運用ノウハウを反映させることができるのも弊社の強みだと考えております。
―筐体がかなりスタイリッシュに見えるのですが、こちらは何か意図があるのでしょうか?
筐体のデザインにこだわったのも差別化ポイントですね。従来の券売機は大きく、決してスタイリッシュとは言えませんでした。
そこでFGKシリーズは「スリム&スタイリッシュ」をコンセプトとし、デザインについては他にはないということで、大変好評頂いております。
また、FGKシリーズにはつり銭機が搭載できる、現金決済タイプもあるのですが、このつり銭機は、従来の奥行700mm から、新しい技術を活用することで、300mmに収めており、こちらも他の筐体にはない特長です。
ハードウェアの強みをしっかり組み込んでいます。
―新しい技術を活用して開発されたのですね。店舗によってはブランディングを損なわないという点でニーズもありそうです。一方セルフオーダー機器となりますと、カスタマイズが大変、アップデート対応を含めた運用・保守が難しいといったイメージもあるのですが、その点はいかがでしょうか。
FGKシリーズ を含めたTOFREE製品は基本的にSaaSでのご提供になるため、スマホのように常にアップデートされていくイメージです。従来ですと、標準のアプリケーションを搭載していたのですが、カスタマイズ・アップデートに手間がかかるため、クラウドでの運用としました。
また、弊社では伴走(カスタマーサクセス)についても力を入れております。アップデートがあれば、各飲食店様に応じて必要なアップデートなのか否かというご相談にも対応しております。
さらに、機械が止まってしまうという事態は飲食店様にとっては死活問題ですので、そういった問題が起きないよう、細心の注意を払っております。
万が一何か問題が起きてしまった際は、全国100カ所以上ある拠点から店舗にお伺いしたり、お電話で対応したりと、万全の保守・サポート体制を整えております。
安心して本来の業務に注力していただける環境を提供する事を常に考えています。
―保守体制が万全だと、店舗様側は安心して活用できそうですね。ちなみにTOFREE製品は基本的にSaaSでのご提供とのことですが、飲食店において重要となるデータ活用においても支援できそうに思いましたがいかがでしょうか。
データ活用についても支援可能です。弊社のDX推進において鍵を握るのが、これまでご説明してきました「TOFREE」と、「BUYZO」というサービスになります。
これまで長年飲食店様をご支援してきたのですが、顧客データを十分に活用できている店舗様は実はそこまで多くないと思っております。
例えば、会員情報は取れていても非会員情報は取れていなかったり、レジ担当の主観で「30代男性」といった属性情報を取得していたりと、まだまだ飲食業界においてはデータ活用の余地があると思っております。
―ではBUYZOではどういったことができるのでしょうか?
データ収集・可視化・販促施策・効果検証までを一気通貫でご支援できます。
具体的には、TOFREEの製品群であるFGKシリーズ、O:der Table、Drive through System、O:der ToGoに蓄積された膨大な購買データを一元化し、さらに分析を実施します。
分析結果から、店舗として強化したい、あるいは補填したいセグメントに対する最適な販促施策を割り出すことも可能ですし、効果検証も行うことが可能です。これまでハードをメインに提供していた弊社ですが、データ活用といったソフト面でも売上向上を支援できればと思っています。
なお、今後の話にはなりますが、FGKシリーズにAIカメラを搭載し、会員非会員問わず来店者の属性データを取得できるように進めている最中です。
従来では、セルフ―オーダーは属性データが取れないという懸念がありました。しかしFGKシリーズ にAIカメラを搭載すれば、属性データを取得・蓄積することができます。
これにより、活用できるデータの数と正確性が向上するため、より効果的な販促施策やマーケティング、商品開発等の立案に役立つほか、属性データに基づいた的確なレコメンドがFGKシリーズ で可能になります。その結果、さらなる客単価向上が見込めるのではないかと考えております。
―TOFREE×BUYZOによって飲食店様をご支援する貴社のDX推進がとてもよくイメージできました。貴社のサービスはどのような飲食店様に向いていると思いますか?
前提として、弊社は日本の食文化を変革させたいと思っています。
さまざまな注文体験、受取り体験が可能なことが当たり前となる世界観を目指し、そこにTOFREEが貢献できればと思っております。
そのため、特定の飲食店様というよりは、DX推進の先に業務効率化だけでなく、人とデジタルの融合でお客様の体験向上と、その先に売上向上を見据えた飲食店様すべてにTOFREEをお届けしたいと考えております。「もの」から「こと」、更に「こと」から「体験」を実現できるよう、更にTOFREEのサービスを拡充していきたいと考えています。
そして、飲食店様のブランドイメージ向上を実現し、我々もビジネスパートナーとして共に成長できればと思っています。DXというとテクノロジーの側面が強いイメージですが、人にしかできない価値提供を実現することがひとつのゴールでもあります。そのために弊社で出来ることはTOFREEでサポートし、それがお客様にとって素敵な体験となるよう、ご支援できればと思っております。
―最後に貴社を一言で現すとどんな会社でしょうか。
一言でいいますと、チャレンジができる会社です。
2026中期の新しいコンセプトがGX(グローリートランスフォーメーション)でして、未来に向けて新しい価値を創造し続ける会社、それが弊社だと思っています。
―――――このたびは貴重なお時間ありがとうございました!