インバウンド需要の回復が進む中で、自治体に求められる役割はますます重要性を増しています。これまで都市部に偏っていた外国人観光客の流れを地方へと誘導し、地域経済の活性化へとつなげる取り組みが全国で進行中です。また、政府の観光立国推進基本計画においても、自治体は観光振興の中核的な担い手と位置付けられています。本記事では、自治体が進める具体的なインバウンド対策とその成功事例、そして今後の展望について解説します。
自治体のインバウンド対策が重要となっている背景とは?
本項ではまず、自治体のインバウンド対策が重要となりつつある背景について解説していきます。
訪日外国人旅行者の回復
近年、訪日外国人旅行者の数はパンデミック前の水準へと急速に回復しています。特にアジアや欧米諸国からの観光客が増加し、多様なニーズが各地で生まれています。
これにより、地方自治体は都市部に集中する訪日客を地域に分散させ、経済波及効果を得るチャンスを得ています。今後は、受け入れ体制の整備と地域資源の魅力を発信することが、自治体にとっての成長戦略となるでしょう。
地域経済におけるインバウンド消費の役割
インバウンド観光は、地域経済にとって重要な消費源となります。訪日外国人が地元の飲食店や宿泊施設、小売店でお金を使うことで、地域内の経済循環が促進されるためです。
とりわけ地方では、観光が他産業への波及効果を持つ数少ない成長分野となっており、その恩恵は中小企業や一次産業にも及びます。自治体はこの機会を活かし、地域経済の自立・活性化に結び付ける必要があります。
観光立国推進基本計画における自治体の立ち位置
政府が策定する「観光立国推進基本計画」では、自治体は観光施策の実行主体として明確に位置付けられています。特に地方創生の一環として、各地域の特性を活かした観光資源の磨き上げや、受け入れ環境の整備が必要です。
国と自治体が連携し、戦略的にインバウンドを取り込む体制づくりが不可欠です。自治体の姿勢や取り組みの差が、今後の地域間格差を左右するといえるでしょう。
自治体が実施する主なインバウンド対策とは?
本項では、自治体が実施している主なインバウンド対策について解説していきます。
観光資源の発掘
観光の差別化を図るためには、地域に眠る未活用の観光資源を発掘することが欠かせません。たとえば、歴史的な建造物や伝統行事、農村の原風景などは、海外観光客にとっては新鮮な魅力となり得ます。自治体は地域住民や有識者と連携し、観光資源の棚卸しを行い、文化的価値の可視化が必要です。
体験型コンテンツの創出
「見る」観光から「体験する」観光への転換が進む中、体験型コンテンツの整備はインバウンド誘致において極めて重要です。茶道や着物着付け、農業体験など、日本文化に触れるコンテンツは高い評価を得ています。
自治体は地域事業者と連携し、訪日客のニーズに即した体験を提供できる環境整備が求められるでしょう。
観光DXによる情報発信力の強化
デジタル技術を活用した観光DXは、自治体のインバウンド対策の中核をなす要素です。多言語対応のWebサイトやSNS運用、デジタルパンフレットの配信などが代表例に挙げられます。
特にスマートフォンを活用する観光客が多いため、リアルタイムかつ信頼性の高い情報提供が不可欠です。DXを活用することで、情報の到達範囲と訴求力を大きく広げることが可能になります。
インバウンド誘客に向けた補助金・支援制度の活用
観光庁や地方自治体では、インバウンド対策に活用できる補助金や支援制度を多数用意しています。たとえば「インバウンド観光再始動事業」や「外国人観光客受入環境整備補助金」などがあり、設備投資やコンテンツ開発の費用負担を軽減できます。
自治体はこうした制度を把握し、地域事業者と協力して有効活用することで、スピーディーかつ継続的な施策展開が可能となるでしょう。
全国自治体における成功事例とは?
続いて本項では、全国の自治体で実施しているインバウンド対策の成功事例についていくつかピックアップしていきます。
事例①:歴史的名所を活かした地域ブランディング
歴史的建造物を軸に地域の魅力を発信し、インバウンド誘客に成功した例としては、石川県金沢市が挙げられます。
同市は、兼六園やひがし茶屋街といった文化資源を「歩いて巡る和の街」として打ち出し、欧米圏を中心に観光客の滞在時間と消費額を向上させました。過度な開発に頼らず、既存資源を活かした地域ブランディングは、多くの自治体にとって参考になる取り組みといえるでしょう。
事例②:外国語対応を強化した観光案内所
岐阜県高山市では、外国語対応の強化によって観光客の満足度を大きく高めています。市内の観光案内所では英語・中国語・韓国語などの言語に対応したスタッフを常駐させ、パンフレットや地図も多言語化されています。
結果として、道に迷うストレスの軽減や観光行動の円滑化につながり、口コミ評価も向上しました。言語対応は、訪日外国人にとって安心感を生む重要な要素です。
事例③:地域住民と連携した観光まちづくり
岡山県倉敷市では、地域住民と自治体・事業者が一体となった「観光まちづくり」を推進しています。
住民がボランティアガイドとして参加したり、空き家をリノベーションして宿泊施設に転用するなど、地域と観光客が共存する仕組みが整っています。このように、観光による恩恵を地域住民と共有する姿勢は、持続可能な観光モデルとして注目されています。
今後の自治体インバウンド対策の展望とは
続いて本項では、今後自治体のインバウンド対策がどのように展開していくことになるのか、展望について解説していきます。
インバウンド対応力の可視化
今後は、自治体や観光施設がどの程度インバウンド対応できているかを「見える化」することが求められます。多言語対応・キャッシュレス対応・Wi-Fi環境など、各種整備状況を可視化することで、訪日客が安心して訪問先を選べるようになります。
KPI(主要業績評価指標)としての導入も進んでおり、行政の取組状況を数値で検証する流れが主流となるでしょう。
観光地域づくり法人(DMO)の活用
DMO(観光地域づくり法人)は、地域観光を持続的に推進するための中核組織として注目されています。観光資源のマーケティング、来訪者データの分析、民間連携の強化など、自治体単独では難しい業務を一括して担う存在です。
DMOとの協働により、自治体はより戦略的な誘客施策が可能となり、インバウンド施策の精度とスピードを両立できます。
持続可能な観光と地域共生を目指した施策
インバウンド観光を継続的に成功させるには、地域社会との共生が不可欠です。過度な混雑やマナー違反による「観光公害」を防ぐためにも、地域住民の理解と協力を得る施策が求められています。
たとえば、来訪ルールの周知、観光税の活用、観光と暮らしのバランスをとる制度設計がその一例です。観光地と住民がともに心地よく暮らせる環境づくりも今後の自治体のミッションとして求められるでしょう。
まとめ
自治体が担うインバウンド対策は、単なる観光客の受入れにとどまらず、地域の資源を活かした経済活性化や文化継承、住民との共生といった多面的な視点が求められます。今後は、観光DXによる情報発信の高度化や、DMOとの連携、持続可能な観光モデルの構築が不可欠となるでしょう。地域独自の強みを見極めながら、外国人旅行者と住民が共に価値を感じられる観光地づくりが、自治体にとっての新たな使命となりつつあります。