店舗の新規出店や既存店舗の経営戦略を立てる上で、欠かせない情報源になるのが商圏分析です。商圏分析をうまく行えば、他店との差別化や集客など、さまざまな場面で効果を発揮します。
しかし、商圏分析を行うには専門的な知識が必要になる面もあるため、個人では難しいのも現状です。
では、商圏分析を行うには、具体的にどのようなやり方で進めれば良いのでしょうか。また、個人で商圏分析を行うことは可能なのでしょうか。
本記事では、商圏分析とはなにか、目的や重要性と商圏分析のやり方について解説します。記事後半では、商圏分析に役立つツールも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
商圏分析とは
商圏分析とは、商圏(店舗の顧客が多くいるエリア)の居住者や通過者(通勤・通学など)の属性や嗜好などの情報を収集し、傾向を分析することを指します。
どのような顧客が多く、どのような商品やサービスを好むのかを分析し、商品開発や集客・販促施策に活用するためのものです。
商圏内の情報は日々変化しているため、新規出店時だけでなく、既存店舗における経営戦略を立案する際にも実施されます。
地域の詳細な分析が可能なため、エリアマーケティングに活用される手法です。
商圏分析を行う目的
商圏分析は、収益がどの程度見込めるのかを把握する「売上予測」を目的として実施するケースが一般的です。
具体的にどのような顧客層がいて、なにを求めているのか、商圏データをもとに顧客分析を行います。
集めたデータをもとに、どのような集客・販促を行うのかを検討するため、店舗の出店戦略や経営戦略の立案に欠かせない工程の1つです。
商圏分析の重要性
商圏分析の重要性は、現時点におけるターゲットの情報を集めることにあります。
例えば、高齢者世帯が多い地域でZ世代向けの商品を販売しても、思うように売上を伸ばせません。
その場合は、商圏分析データで傾向を把握し、高齢者向けの商品やサービスを開発するか、既存の販売ルートをECサイトへ変更するなどの施策を講じる必要があります。
商圏分析は、店舗の経営戦略の方向性を決定したり、現況から外れていないかをチェックしたりする上で重要な役割を担っています。
【6ステップ】商圏分析のやり方と活用術
商圏分析のやり方は、以下の6ステップに分けて行う方法が一般的です。
- 店舗の位置や顧客情報のマッピングを行う
- 店舗の商圏エリアを設定・把握する
- 商圏範囲内の統計情報を収集・分析する
- 自店舗の強み・弱みを競合と比較
- 店舗のエリア別で商圏レポートを作成する
- 分析結果の反映と効果測定を行う
ここからは、実際に商圏分析を実施する際のやり方や分析の流れと、具体的な活用術について解説します。
1.店舗の位置や顧客情報のマッピングを行う
商圏分析では、まず店舗や顧客情報の位置情報をマッピングし、自店舗と競合他社の立ち位置、顧客の居住地などの情報を可視化して商圏調査を行います。
実際の地図に位置関係をマッピングしていけば、店舗周辺の状況が客観的に把握できるでしょう。
既存店舗であれば、会員登録の情報から既存の顧客データなどを活用できます。新規出店の場合は、顧客が多くいるエリアなどを統計データからマッピングしておくと良いでしょう。
2.店舗の商圏エリアを設定・把握する
店舗の位置と顧客情報をマッピングしたら、商圏エリアの設定・把握を行いましょう。
自店舗へ来店する顧客が、どこからきているのかがマッピングで可視化されているため、アプローチすべき顧客がいる範囲(商圏エリア)も明確になります。
来店顧客の100%を商圏エリアに盛り込むのではなく、およそ7割~9割が含まれるように設定することが大切です。
新規出店の場合は、徒歩10分以内、店舗から半径〇km以内など、顧客の来店を想定して設定しておくと良いでしょう。
3.商圏範囲内の統計情報を収集・分析する
商圏エリアを設定・把握したら、範囲内の統計情報を集めて分析を行います。
具体的には、公的機関が提供している地図で見る統計(統計GIS)や、商業統計などが挙げられます。
参考サイト:統計地理情報システム|jSTAT MAP
参考サイト:商業統計|経済産業省
また、3rd Party(第三者機関)データが豊富なサービスを活用して、公的機関のデータと併用するのも効果的です。
商圏範囲内の人口や世代、家族構成、経済状況(収入)、顧客行動の傾向(購買行動が多い時間帯など)など、さまざまな情報を集めて、店舗の顧客になりうる層の傾向を掴みましょう。
4.自店舗の強み・弱みを競合と比較
自店舗の強みや弱みを客観的に見て、商圏範囲内の競合店舗と比較してみましょう。
比較した際に、競合店舗の中でとくに売上が伸びている店舗データの情報を収集することが大切です。
自店舗との違いはなにか、競合店舗よりも自店舗の方が優れている面はないかを比較し、経営戦略に活用できるデータを集めましょう。
5.店舗のエリア別で商圏レポートを作成する
エリア別に分けて、商圏レポートを作成しましょう。複数の店舗を経営している場合は、店舗ごとに作成することが大切です。
収集したデータを比較しやすいように、表やグラフでまとめておくのも有効です。売上が伸びている店舗と比較して、傾向の違いを分析しましょう。
新規出店の場合は、出店前の分析結果を保管しておけば、再度商圏分析を行った際に変化を比較できます。中長期的な経営戦略を立てる際にも有効です。
6.分析結果の反映と効果測定を行う
商圏分析データを活用して、店舗の集客・販促などのマーケティング戦略に反映し、その効果を測定します。
実施した施策の費用対効果を検証したり、商圏分析の結果を反映する前後における施策の効果に、違いがないかを確認したりすると良いでしょう。
どのような施策に効果が表れたのかを把握し、情報として蓄積すれば、再現度の高い集客・販促方法の確立につながります。
商圏分析は、基本となる手法がある反面、活用方法企業によってさまざまです。分析結果をどのように活かすのかが、商圏分析を成功させるカギになります。
商圏分析に必要なデータの種類
商圏分析を実施する際に必要なデータには、以下の項目が挙げられます。
- 商圏人口や世帯数、家族構成などの住民情報
- 主要な移動手段(徒歩、車、電車やバスなど)
- 地域独自の習慣や慣習
- 競合店舗の情報(顧客層、価格帯、カートやレジの数、従業員の配置数など)
- 地域居住者のライフスタイル(昼夜の人口比、週末の行動量など)
- 商圏バリア(山林や坂、橋、幹線道路、大型商業施設など)
これらのデータを収集することで、自社の商圏エリア内における顧客行動の傾向を読み取れるようになります。
例えば、地域独自の習慣として、正月に食べる餅の形状が「丸餅」の地域と「角餅」の地域に分かれることがあります。
丸餅が主流の地域では丸餅を多く仕入れておくなど、地域に合わせた商品・サービスの提供も検討できるでしょう。
また、顧客の購買行動を阻害する原因になる要素「商圏バリア」にあたるものがないか、リサーチしておくことも重要です。
店舗周辺の環境が原因で、来店者数の減少につながるケースがあるためです。自然環境や立地条件のほか、同一の商圏エリア内に大型商業施設がある場合にも、顧客が流れる可能性があります。
このような情報をもとに、店舗の経営戦略を立てることが商圏分析を活かす方法です。
効果的な商圏分析を実施するポイント
経営戦略に役立つ効果的な商圏分析を実施するには、以下のポイントが重要です。
- 定期的に継続して行う
- 分析結果を施策に反映させる
- ツールを活用して効率化する
これらのポイントがなぜ重要なのか、商圏分析の効果を引き出すために意識しておきたいことを解説します。
定期的に継続して行う
商圏分析は、定期的に継続して実施し続けることが重要です。
継続していなければ、地域の変化を素早く察知できません。結果的に、店舗の売上低下をまねく要因になる恐れがあります。
一方で、定期的に継続して商圏分析を行っていれば、地域の変化をいち早く察知できるでしょう。
変化に応じて、効果的なタイミングで新規商品を打ち出したり、集客・販促につながるイベントを実施したりできます。収益化の機会を逃すことなく、最適なタイミングで戦略が打ち出せるでしょう。
分析結果を施策に反映させる
商圏分析の効果を発揮させるには、分析結果を集客・販促施策などの経営戦略に反映することが大切です。
分析をしただけでは、状況は理解できても店舗経営に活かせていません。分析した内容をどのように活かしていくかが、商圏分析を店舗経営に活かす重要なポイントです。
商圏分析を行ったあとは、どのような施策を実施していけば良いのか、具体的なアイデアに落とし込んで戦略を立てましょう。
ツールを活用して効率化する
商圏分析を行う際に役立つツールを活用し、分析作業を効率化するのも重要なポイントです。
商圏分析は、蓄積された大量のデータをもとにして現状を把握する手段です。大量のデータを手作業でまとめるのは、時間も労力も消費します。
商圏分析ツールを活用すれば、集めたデータの集計作業における負担軽減やツール独自のデータ分析が行えるなどのメリットがあります。
商圏分析におすすめのツール3選
ここからは、商圏分析を実施する際に役立つおすすめのツールを3選紹介します。
無料で利用できるものもありますが、より詳細なデータ分析を実施したい場合は、専門の分析機関に依頼するのもおすすめです。
jSTAT MAP
出典:総務省統計局
jSTAT MAPは、総務省統計局及び独立行政法人統計センターが提供している、地域分析ツールです。無料で利用できます。
国勢調査などの情報をもとに、国が主導で提供しているサービスのため、信頼性の高いデータを得られる点が特徴です。
以前まで、各府庁で管理されていたデータを一元化する形で、わかりやすく提供しています。都道府県、市区町村、小地域(町丁・字)、地域メッシュデータなど、統計情報の活用に便利です。
マップ上に情報を反映させる方法のほか、データ抽出してグラフ表示させるなど、視覚的に情報を把握できます。
参考サイト:jSTAT MAP公式サイト
RESAS
RESASは、経済産業省と内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が提供している、地域経済分析システムです。
以下の9つのマップで構成されています。
- 人口マップ
- 地域経済循環マップ
- 産業構造マップ
- 企業活動マップ
- 消費マップ
- 観光マップ
- まちづくりマップ
- 医療・福祉マップ
- 地方財政マップ
jSTAT MAP同様、ほとんどの機能が無料で利用できる点が特徴です。
例えば、地域の老年人口推移を分析すれば、介護市場の需要状況などを把握できます。また、消費マップでは、地域ごとの食品や飲料などの消費動向を確認することが可能です。
抽出したデータを外部ツールに読み込ませ、さらに詳細な分析を行うなどの活用方法にも適しています。
参考サイト:RESAS公式サイト
ArmBox
ArmBoxは、株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズが提供している民間の商圏分析ソフトです。
既存店舗の商圏や競合店舗との位置関係がすぐにわかるほか、居住者の特徴や人流データなどを商圏に重ねて分析する方法もあります。
戦略立案や販促サポートが充実している点が特徴で、初めて商圏分析を実施する方にもおすすめです。
50IDまでであれば月額6万円で利用できるため、小規模店舗での活用にも適しています。初期費用は別途10万円必要です。
参考サイト:ArmBox公式サイト
そのほか、無料で利用できる商圏分析ツールについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
こちらもぜひ、参考にしてください。
まとめ
商圏分析は、商圏エリア内の競合情報や消費者の動向を探る上で重要なデータです。集客・販促戦略を、データに基づいて実施できるため、効果測定も容易になります。
商圏分析において重要なのは、情報を集めて店舗の周辺の状況を把握することです。
自店舗にとってどのような情報が必要なのかを明確にして、効果的な集客・販促施策を実施するためのヒントを見つけ出しましょう。