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2024/07/26

キャッシュレスか現金か?決済をめぐるコスモス薬品VSウエルシア薬局の体験的攻防

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キャッシュレスか現金か?決済をめぐるコスモス薬品VSウエルシア薬局の体験的攻防
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当たり前になったキャッシュレス決済

7月1日からの新紙幣の流通が話題となっています。ところが、最近めったに現金を使うことがなくなった、という方は多いのではないでしょうか。
通産省の統計によると、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%だったそうです。別の調査で、NIRA 総合研究開発機構は、キャッシュレス決済比率は7割を超えていると発表しています。実感に近いのはこちらのほうかなとも思います。
コロナ禍の影響で、非接触レジへの対応が必要不可欠となり、QRコードやタッチによるにキャッシュレス決済も急速に普及しました。スマホのアプリと連動することで、またたく間に日常に浸透してきたのが、いま現在ということになります。
筆者もその例にもれず、罪悪感を感じつつも飲料1本でもスマホでクレジットカード決済にしてしまいます。現金を使うような店は、可能な限り避けるようになりました。というのも、銀行口座がクラウドの会計ソフトに連携しており、クレジットカードの利用履歴が自動登録されるからです。一方でQRコードのようなプリペイド方式のキャッシュレス決済も使いません。チャージした総額しか記録に残らないからです。
身近な人に聞いてみても、まあみな同じようなものです。しかも現金決済忌避症に陥っている人は多く、役所など公的な支払いや医療費が現金なのはイラッとくる、という声もひとつやふたつではありません。
アフターコロナでは、事業者に有用なものとして、キャッシュレス決済が、マーケティングや省力化への活用で注目され、さらに普及のいきおいを増しているようです。
その普及を妨げる最大の要因は手数料にありますが、大手100円ショップのチェーンですらキャッシュレス決済が当たり前になりつつあるいま、一部の個人店でない限り、現金決済オンリーの店舗のほうがめずらしくなっているのではないでしょうか。

いまどき現金決済オンリー、コスモス薬品

コスモス薬品店舗

コスモス薬品広尾店

それがディスカウントドラッグストアのコスモス薬品です。
コスモス薬品は九州を拠点に、全国に1500店もの店舗網を築いています。売上高も約9650億円、ドラッグストアチェーン4位の規模を誇っています。
コスモス薬品については、以前からよく認識していました。激烈な九州エリアのディスカウント競争を勝ち残り、あれよあれよという間に本州へ進出し、既存の小売業者を震撼させていたからです。店舗が近くになく、長い間利用の機会がありませんでしたが、最近、北関東の栃木県那須塩原市で、たまたま店舗を見つけたのです。関東圏の進出に力を入れるなかで、いつの間にか栃木県にも店舗網が広がっていたようです。
店舗に入った印象は、とにかく店内が明るく、レジ周りのゾーンから店舗の奥まで、長い陳列棚が一直線に伸びていてそれに圧倒されます。
店頭売価表示は税込みの総額表示。ドラッグストアですが、食品や雑貨にも力を入れているフード&ドラッグ業態です。青果はほとんど品揃えがなく、精肉と鮮魚は冷凍食品で代替しています。ロスが出る生鮮、薬剤師が必要な調剤部門は思い切ってカットしています。
なにより驚いたのは、レジが現金決済のみだということです。
コスト削減の思い切った工夫が随所にちりばめられていて、数店舗見て回ったところ同じフォーマットで標準化されているようでした。
長い一直線の陳列棚のワンウェイコントロールをカートでたどっていくと、奥に充実した冷凍食品の長い冷凍ケースが待ちかまえています。たとえば九州のファミレスチェーン、ジョイフルで提供されている料理の冷凍パック商品とか、関東ではあまりお目にかかれない商品も多く、売場が楽しいと感じます。
飲料などは税込みで激安のアイテムがたくさんあって、つい何種類もバスケットに放り込んでしまいます。
そうして売場を回るうちに、バスケットには商品がいっぱいになっていきます。
レジに進むと、頭の中でおおよその金額を計算して、このぐらいかなと思って現金を用意していると、想定していた金額よりもだいぶ安かった、ということが起こるのです。
これは新鮮な驚きでした。財布の中でたまっているコインを全投入して整理できるのも快感で、キャッシュレスでなくてもいいか、と思える瞬間です。

コスモス薬品 VS ウエルシア薬局、バスケット対決!

コスモス薬品VSウェルシア
では、実際にどのぐらい安いのでしょうか?今年出店したばかりの「コスモス薬品かみのかわ店」と、ドラッグストアNo. 1チェーンの「ウエルシア薬局上三川しらさぎ店」で比べてみました。
バスケットで総額1万円程度になるぐらいにナショナルブランド商品をランダムに選び、価格比較をしてみました。その結果が図表1です。
全部で19アイテムのうち、コスモス薬品が安いのは15アイテム、ウエルシア薬局が安いのが2アイテム、引き分け2アイテムとなり、予想どおりコスモス薬品の圧勝となりました。
ウエルシア薬局は薬剤師が常駐する調剤薬局を備え、24時間営業で、ディスカウント指向ではありません。またポイントが充実しているのと、なにより中国のクレジットカードにも対応可能なフルラインでのキャッシュレス決済機能を備えています。
周辺の競合状況をみると、両店の距離が離れていることもあり、同じドラッグストア業態でありながら、必ずしも競争状態になく、コスモス薬品の影響を受けているのはむしろ近くの食品スーパーマーケットのようでした。
とはいえ、調査のとおり10,000円でちょうど消費税分ぐらいの価格差がつきました。
ウエルシアは店頭売価表示が外税表示メインで、そちらを足しこんだ感覚からすると、あまりコスモス薬品と変わらないという印象でしたが、実際はこれだけの差があったわけです。

図表1.ランダムに選んだNB商品価格比較表

そこで、経営に対する姿勢の違いを、両社の直近の損益計算書で確認してみましょう。比較は、コスモス薬品は2024年5月期連結、ウエルシア薬局は2024年2月期(単体)の損益計算書からの数値となります(図表2)。

図表2、直近PL比較

同じドラッグストアチェーンでありながら、両社の取り組みの違いが明確に出ています。
コスモス薬品は、店頭売価を下げるために、並々ならない努力をしているのがわかります。
まず原価率です。なんと80%を超えています。ウエルシアとは11ポイント以上も差があります。
次に販管費率ですが、コスモス薬品のそれは16%台という驚異的なものです。ローカルやルーラル立地が主体とはいえ、ウエルシア薬局とはここでも10ポイント以上の差がつきました。
買い物の快適さを損なわないように細心の注意を払いながら、ありとあらゆる要素で無駄をそぎ落としたコスモス薬品の店舗運営の姿が浮かび上がってきます。
そうして得られる営業利益が売上高比3.3%となるわけですが、自ずとキャッシュレス導入の選択をしない理由が判明します。売上高比2〜3%程度のキャッシュレス手数料支払いを前提とすると、営業利益の確保が困難になってしまうからです。
さらに両社の店舗運営の違いを理解するために、商品部門構成比を見てみましょう(図表3)。

図表3.商品構成比率

コスモス薬品は、食品と雑貨の構成比が75%を超えています。ウエルシア薬局では35%を超える程度です。調剤部門でも両社の違いが際立っています。コスモス薬品はほとんど切り捨てている部門ですが、ウエルシア薬局では21%以上の構成比になっています。
同じドラッグストアチェーンでありながら、両社はほとんど別業態を運営しているといっても過言ではないほどの違いがあったのです。

東京圏進出とキャッシュレスの浸透

東京都心の広尾駅。地下鉄日比谷線の2番出口を出るとすぐ、コスモス薬品が店舗をかまえています。この「コスモス薬品広尾店」は、はっきり言って別物です。調剤薬局がメインで、ヘルス・ビューティケアとドラッグの品揃えもある門前薬局に近い小型店(冒頭の写真)です。
なによりこの店は、キャッシュレス決済が導入されているのです。
コスモス薬品は東京圏への出店を加速しようとしていると考えられますが、広尾店ほどではないにしても、調剤薬局併設やエリアごとの業態開発を要するかもしれません。
また、キャッシュレス決済のさらなる普及が、あらゆるエリア、年代層におよぶようになったとき、既存店の現金決済オンリーの運営がいまのまま維持できるのかどうかということも課題になるかもしれません。
日本生産性本部の関連組織による「顧客満足度指数(ドラッグストア部門)」で13年連続第1位となった同社の顧客ロイヤルティは、明らかに安さに支えられていますが、それがどう維持され、あるいは変貌を遂げていくのかは、おおいに注目されるところです。